檻の中のわたし……
檻の外のあなた……
――もうひとりの、わたし
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

月に叢雲、花に風 
     〜わたしに捧げる鎮魂歌〜 

序章 - prologue -

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
わたしは陽のあかるさもあたたかさも知らずただ今日を過ごす
あなたは今なにをしているの?
そとでおともだちと遊んでいるの?
それともお母さんに本を読んでもらってるの?
あなたは今しあわせ?
 
 
 
 
 
 
 
 
 
檻の外のあなた……
檻の中のわたし……
 
わたしはずっとここにいてもいい
あなたがしあわせなら
寂しくないと言えばうそになるけど
それでもいい
わたしが我慢すればいいだけだから
 
 
 
 
 
 
 
 
檻の中のわたし……
檻の外のあなた……
 
あなたはわたしの名前を知っている
わたしもあなたの名前を知っている
あなたの名前はだれでも知っている
わたしの名前はだれも知らない
あなたがくれた名前
ほかのだれも知らないけどそれでもいい
あなたに呼んでもらえればそれだけでしあわせだから
 
 
 
 
 
 
 
 
 
檻の外のあなた……
檻の中のわたし……
 
わたしは毎晩涙をながす
なぜかはわからないけど涙が出てくる
そんなときはあなたのことを考える
あなたのわらったときやこまったときの顔
いまどんなふうに寝てるんだろう
どんなふうにおともだちと話すんだろう
そんなことを考えると涙は止まる
けど今度はあなたに会いたくなってしまう
会えないからまた涙が出そうになる
会いたい
あなたのその手でわたしの頭をなでながらなぐさめてほしい
わたしはひとりじゃないって言ってほしい
きみにはぼくがいるよ
そう言ってほしい
でもそれはわがまま
だからわたしはうたを唄う
あなたにおしえてもらったうたを唄う
あなたがそばにいるような気がするから
わたしはひかりもささない暗闇のなかでうたを唄う
 
 
 
 
 
 
 
 
 
檻の中のわたし……
檻の外のあなた……
 
あなたのしあわせ
それがわたしのねがいごと
わたしは消えてもいい
それであなたがしあわせになるのなら
でもあなたはそれを望まない
あなたはわたしといっしょにしあわせになろうと言う
それはゆるされないこと
共にいきるということ
あなたのかなうことのないねがいごと
 
 
 
 
 
 
 
 
 
檻の外のあなた……
檻の中のわたし……
 
わたしは毎日祈る
かみさま
どうかあのひとにしあわせな明日を
しあわせな時間をわたしの分まであげてください
おねがいします
わたしは消えてもいい
わたしのことを忘れられてもいい
わたしの名前もあげます
あのひとからもらった大切な名前を
だからおねがいします
あのひとにしあわせな明日を
あなたのしあわせ
わたしの三つめのねがいごと
 
 
 
 
 
 
 
 
 
檻の中のわたし……
 
檻の外のあなた……
 
――もうひとりの、わたし
 
 
 
 


あとがき 
 
 
なにがなにやら 
 
 

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