プレゼントも一通り渡し終えたようだ。
 今は皆、料理をぱくつきながら雑談に興じている。
 特に椅子とかは置いていないので、好きに移動しながら楽しめるみたいだ。
 
 俺はソファのほうに座り、唐揚げをあぐあぐと咀嚼しながら、とりとめのないことを考える。
 …………天然物のあゆ。
「祐一君、なんか変なこと考えてない?」
「そんなことはないぞ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
月に叢雲、花に風
     〜お誕生日は無礼講でGO〜

番外ノ五
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「それより、ねぇ、祐一君。今日のボクになにか言うこと無い?」
 あゆは服の裾をひらひらさせたり、くるくると回ったりする。
 先程まで玄関先でうぐうぐ鳴いていたようには見えないな。
「……なんで遅れたんだ?」
「うぐっ……だって、一応パーティーするって聞いたから……」
 よく見ると、いつもよりは小綺麗な格好をしている。
 それで遅れたという訳だ。
「そうか」
「うぐっ、それだけっ!?」
「他に何かあるのか?」
「それは、ほら、なんていうか……ねぇ?」
 そしてさっきと同じ動作を繰り返す。
「……あぁ、馬子にも衣装ってやつか?」
「…………それって褒めてるの?」
 意味は『誰でも外面を飾れば立派に見える』ということ。
「あぁ、もちろん。とても可愛いという意味だぞ」
「うぐ……ありがと……」
 照れているのか、あゆは顔を赤くして台所の方へ逃げていった。
 ……逃げるくらいなら聞くなっての。
「……だましてる?」
「うわっ」
 いつの間にか舞が横にぴったりと張り付いていた。
「人聞きの悪い。だましてなんかいないぞ」
「……そう」
 納得していないような顔で頷く。
「……私は?」
「舞も可愛いよ」
 そう言って頭を撫でてやる。
 うん、やっぱり可愛いな、舞も。
「…………祐一も可愛い」
 今度は舞が俺の頭を撫でる。
 複雑だねぇ……
「……なでなで」
 でも、頭を撫でてもらうのって、案外気持ちいいものなんだな……
 なんか気持ちがぽわ〜んとしてくる。
「あ、舞〜、いいことしてるね〜」
「祐一撫で」
 なんじゃそら。
「佐祐理もお邪魔しますね」
 佐祐理さんは俺の左側に座る。
「祐一さん。今日はありがとうございます、佐祐理のために……」
「いえ、いいんですよ、俺がしたかっただけなんですから」
「でも……」
「いいですってば。それとも、気に入りませんでした?」
「いえっ、そんなことはありませんっ」
「よかった……あ、そうだ。俺からのプレゼントはまだでしたね」
 ごそごそと懐をまさぐる。
「はい、佐祐理さん、誕生日おめでとう」
 そう言って小さな箱を佐祐理さんに渡す。
「……小さい」
「舞のと比べると、なんでも小さいだろ」
 あの箱に入っていたのは、でかいぬいぐるみだった。
 今は栞がきゃーきゃー言いながら抱きついている。
「ありがとうございます、祐一さん。開けてもいいですか?」
「どうぞ」
 リボンを外し、箱を開けた中に入っていたのは、それより一回り小さな箱。
 柔らかな布のような手触り、真ん中から開けるちょっと変わった箱。
「これって……」
 箱を開けると、ぱか、という軽い音がする。
 中に入っているのは丁寧な細工の施された銀色のリングだ。
「……祐一」
 横から舞の冷たい声が響く。
「あはは……佐祐理、感動ですよ……」
 佐祐理さんは中のリングをそっと取り出し、左手の薬指に填めた。
「どうですか?」
「えぇ……似合ってますが……」
 左手の薬指はちょっといただけない。
「ゆ・う・い・ち」
 底冷えのするような舞の声。
「…………なんだ?」
「どういうこと?」
「いや、ちょっと待て、ちがうぞ?」
 首筋に剣の切っ先を当てられたかのような舞の雰囲気に冗談を言える程、俺の神経は太くはなかった。
「あはは〜〜、冗談ですよ、舞」
 そう言って右手の薬指に填め直す。
「……ならいい」
「はぁ……佐祐理さん、頼みますよ……」
「あはは……でも、これ高い物じゃないですか?」
「そうでもありませんよ。俺の小遣いで買えるような物ですからね」
 佐祐理さんは手のひらを返したり、光に当ててみたりしている。
「……ありがとうございます」
「ホントは俺にリボン巻いて『プレゼントですっ』でもよかったんですけどね〜」
「あはは〜〜、佐祐理はどちらかというとそっちの方がよかったですね〜〜」
 …………佐祐理さん。
「……私も、指輪が欲しい」
 舞がくいくいと俺の服の端を引っ張りながら言う。
「あぁ、舞の時にもなんかやるよ」
 ぽんぽんと頭を撫でながらそう言った。
「……ん」
「さ、パーティーの続きといきますか?」
「そうですね」
「はちみつくまさん」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「あれ、料理がかなり減ってますね……」
「えぇ……みなさんよく食べるので、あっという間に無くなりました」
「それじゃ、俺がなんか作ってきますよ。台所借りますね」
「いいんですか?」
「いいんです。たまには何かしないと」
「……それじゃ、お願いしましょうか」
「はい」
 ……とはいったものの、何を作ろうか。
 冷蔵庫を漁ってみると、結構いろんな材料がある。
 ……鮎のムニエルという手もあるな。
 あゆをからかうのにも使えそうだし。
 よし、それをメインに作っていくか。
 さてさて、まずは捌くところから始めないとな。
 適当な数を捌き、それをムニエルに仕立てていく。
「あ、いい匂いだね、祐一」
「ん? 名雪か……あ、出来たの持っていってくれ。そこに置いてあるやつ」
「うん、わかった……でも食べられるかな……」
「……どうかしたのか?」
 俺は鮎の腹を割いているナイフの手を止め、名雪の方を向く。
「……見れば分かるよ」
 そう言ってリビングの方に消える名雪。
 取り合えず俺もその後に付いていく。
「…………ぐぁ」
 酒臭いぞ……
 見てみると、至る所に日本酒やらワインが置いてある。
「いつの間に用意したんだ……?」
「パーティーと言えば、宴会よ、相沢君」
 香里はくすくすと笑いながらグラスを傾けている。
 パーティーと宴会って……ニュアンスが大分違くないか?
「酔ってるだろ」
「酔ってないわ」
 ……なんだかなぁ。
「あ〜〜〜、こぼしちゃいました〜〜」
 栞も飲んでるのか……
「あらあら」
「秋子さん、見てないで止めてくださいよ……」
「たまにはいいじゃないですか」
「……いいんですか」
「いいんですよ」
 はぁ……
「栞、俺が拭いとくから、お前は服をどうにかしてこい」
「あ、栞ちゃん、わたしの貸してあげる」
「えぅ……すいません……」
 栞は小さい体を更に縮める。
「何やってるのよ、栞」
「えぅ……だって……」
「だってじゃありません」
「…………ごめんなさい」
「いい、栞? あなたは――」
 香里はねちねちと栞に説教をたれている。
 ……イヤなタイプだな。
 俺はこぼしたワインを布巾であらかた拭き取る。
 軽く拭いただけであっという間に使い物にならなくなった。
 ワイン臭くなった布巾を濯ぐために台所へ行く。
 ……はぁ……なんでこんな事になったんだ……
 というか、誰が酒を持ち込んだんだ?
 疑問は尽きない。
 布巾をぎゅっと絞り、残った所を拭きにリビングへ戻る。
 
 
 
 
 やっぱり臭い。
 ……しばらくここは酒臭いな。
 
 
 
 
 
 
 
 


あとがき

ネタが思うように出てこない……
ぼろぼろです、最近……

とりあえず、これが一話の冒頭部分に繋がります
……なんか、長くなりそうな予感が
 
 

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