玄関のドアを開ける。
「…………」
「……なんか言えよ、舞」
「ただいま」
「いや、違うだろ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
月に叢雲、花に風
     〜お誕生日は無礼講でGO〜

番外ノ四
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 舞の後ろにはいつものメンバーがずらりと揃っていた。
 佐祐理さん、天野、美坂姉妹、それと――
 ……あゆはまだか。
「舞、お邪魔します、でしょ?」
 佐祐理さんが子供に教えるように、優しく舞に言う。
「……邪魔はしないけど、お邪魔します」
「…………まぁ、その使い方はどうかと思うけど、上がってくれ」
「はい、お邪魔しますね、祐一さん」
「といわれても、俺のうちでもないんですけどね」
「あ、では家主さんにご挨拶してきますね〜」
「台所にいると思いますよ」
「はい」
 佐祐理さんは上品に靴を脱ぎ、台所へと向かっていった。
「みんなも上がってくれ、準備とかあるしな」
「はい、お邪魔します〜」
「邪魔するわよ、相沢君」
 香里の不遜な物言いが素敵。
「お邪魔致します、相沢さん」
「おう」
 そして天野もリビングの方へと向う。
「…………舞?」
「……なに?」
「上がらないのか?」
 舞だけが玄関に留まっている。
「……荷物がある」
「荷物? どこにだ?」
「邪魔になるから外に置いてた」
「ふ〜ん……」
 舞は踵を返し、玄関を出ていく。
 そして戻ってきた時には、一抱えもある大きな箱を持っていた。
「…………でか」
 それは確かに邪魔になる。
「プレゼント」
「俺にか?」
 
 げしっ
 
 ……チョップ出来ないからといって、蹴りはどうかと思うな、俺。
「分かってるよ、佐祐理さんのだろ」
「祐一は用意した?」
「したさ。それはもう、すんごい物をな」
「…………」
 舞が不審な視線を投げかけてくる。
「……別に怪しげなグッズとかじゃないぞ」
「…………怪しげなグッズって、なに?」
「例えば×××××××だとか」
 その瞬間舞の顔が真っ赤に染まる。
 ……×××××××がなにかというのは知ってるんだな。
 素人だとなんのことか分からないはずなんだが。
「……祐一のすけべ」
「ふ〜ん、それがどういう物か知ってる舞は、どうなのかな?」
「…………」
 更に顔を赤くする舞。
 首筋まで真っ赤だ。
「はは……冗談だよ。ほれ、早く上がれよ、舞」
「……はちみつくまさん」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「えぅ……凄い豪華です……」
「そうね……」
 台所では秋子さんがパーティー用の料理を準備している。
 いつもの食卓には、そのための食材がどっさりと置かれているわけだ。
「あ、私もお手伝いしますね〜」
「……栞だけだと不安ですから、私も手伝います、秋子さん」
「えぅ……どこが不安なんですか」
「食材を無駄に使って大量に作ろうとするでしょう」
「…………えぅ」
 実績があるだけに反論出来ない栞。
「佐祐理もお手伝いします、なにをしましょう?」
「いえ、佐祐理ちゃんは今日の主役ですから、リビングでくつろいでいてください」
 佐祐理ちゃんか……
「ふぇ……そうですか……」
 佐祐理さんは少し残念そうな顔。
「出来上がるまで祐一さんと遊んでていただけませんか?」
「はい、わかりました。さ、祐一さん。いきましょう」
 俺の腕を取ってリビングに戻ろうとする。
「うお……」
 ……少しみんなの視線が怖かった。
 
 結局、リビングには料理しない組が揃った。
 佐祐理さん、真琴、俺の3人だ。
 舞が料理出来るというのは意外のような気もするが。
「あぅ……まだかな……」
「もう少しですよ、真琴ちゃん」
 真琴の頭を撫でる佐祐理さん。
 う〜ん、お姉さんしてるねぇ……
「あぅ……」
 真琴は気持ちよさそうに目を細め、為すがままに任せている。
 ……頬を染めているのはご愛敬だろう。
「……可愛いですね、祐一さん」
「俺が?」
「それもありますが、真琴ちゃんがですよ」
 ……今、聞き捨てならないことを耳にしたような?
「一家に一台は欲しいですね……」
 一台て……
「ホントは弟じゃなくて妹が欲しかったんですよ、佐祐理は……」
 弟さんが報われないな。
「だからしょっちゅう女装させたりしてましたね……」
 ……察するぞ、一弥……
「その度にこう言ったんですよ。
 『お姉ちゃんはなんでボクにこんな格好させるの?』
 『妹が欲しかったからだよ、一子』
 『ボクは一子じゃなくて一弥だよ』
 『そうね』
 『妹じゃないと駄目なの? 男のボクじゃ駄目なの?』
 『男の子の一弥は、はっきりきっぱりすっぱり言えば、嫌い』
 『ぇぐ……』
 90%の確率で泣きましたね」
 鬼っすよ、佐祐理さん……
「でも、女の子の格好で泣いてる一弥は可愛かったなぁ……」
 佐祐理さんは遠いどこかを見てぽ〜っとする。
「あぅ……祐一……このお姉ちゃん、怖い……」
 俺もちょっと怖い。
「ね、祐一さん」
「な、なんですか?」
「今度の休みに私の家に来ません?」
「…………なんだか嫌な予感がするのですが?」
「気のせいですよ」
「そうですか」
「あ、なんでしたら真琴ちゃんもどうですか?」
「あぅ……いい……」
 真琴は横に首を振る。
 それが正しい判断かもしれないな。
「……残念です」
 本当に残念そうな表情だ。
「は〜い、第一陣の登場です〜」
 栞が掛け声と共に両手に大皿を乗せてやってきた。
 それをリビングに増やしたテーブルの上に置く。
「まだまだ来ますからね〜」
 そう言ってそそくさと去って行く。
 すれ違いに香里が料理を運んでくる。
「…………重いわ」
「貸せ、俺が運ぶ」
「……ありがと」
 照れてる香里もいいね。
 そして次々と運ばれるて来る料理の数々。
 ……ちょっと豪華すぎる気がしないでもない。
 というか、張り切りすぎです、秋子さん。
「ふぇ〜〜、凄いですね〜〜」
「あぅ……おいしそ……」
「真琴、まだ食べちゃ駄目だからね」
「……名雪もイチゴから目を離して言いなさいよね」
 香里が名雪にツッコミを入れる。
「……牛皿もある」
 それは舞用だな。
「それでは、はじめましょうか?」
 秋子さんが最後の料理を持って来た。
「では、乾杯の音頭を。祐一さん、お願いしますね」
「了解です」
 俺はジュースの入ったグラスを手に取り、ソファから立ち上がる。
「長ったらしい前置きは俺が面倒なので省略。
 ということで、佐祐理さんの誕生日を祝って――かんぱ〜い」
『かんぱ〜い』
 それぞれにグラスを鳴らし合う。
 さぁ、パーティーの始まりだ。
 
 
 
 
 
「うぐ……もう始まっちゃってる……」
 あぁ……忘れてたな……
 
 
 
 
 

 
あとがき
 
佐祐理さんがえらいことに
佐祐理さん派の方、ごめん
しかし最近シリアス書いてない……

もひとつ最近気になることが
このSSで祐一が女である必要性が全く感じられないこと
……どうしよう
そろそろなんかイベントおこして話を戻さねば……
というか、時間が欲しい
 

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