「なぁ、まい。おまえの本体って事は……あっちが本物って事だよな」
「うん」
「じゃあ、おまえはなんなんだ?」
「ん〜……あれだね。”もうひとりの自分”とか”二重体”とか”ドッペルゲンゲル”とかいうやつ?」
「会えば死ぬとか、そういう存在なのかおまえは」
「そう。だから夜な夜な相手してるんだけど、死なないね〜」
「じゃんけんでか」
「だって、ほら、負け続けるとけっこうへこむでしょ? そのうち弱ってこないかな〜って」
「おまえ頭弱いだろ」
「バカにすんなっ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
GEDOU
    〜 奥さん、外道ですよ 〜

ツナギノニジュウヨン
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ま、正確なところはドッペルゲンガーって言うか、もうひとりの舞って言った方がいいのかな」
 遠くで舞の啜り泣く声をBGMに、まいは説明をする。
「覚えてる? 祐一が帰る時に、あの時のわたしがなんて言ったか」
「たしか……魔物がどうとか言ってたな。待ってる、ひとりで戦ってる、とも」
 そんなことは言われるまで忘れていた。
「そういうことなの」
 妙に大人びたまいの仕草に違和感を覚える。
「……自分で作ったってわけか。戦うべき相手として、もうひとりの自分を」
「でも、もうそんなことも忘れてるけどね。今の舞は『いっぺんキャン言わしたるっ』て感じ」
「まぁ、勝率1%ちょいじゃそうもなるって」
「その1%もはじめの1年だけなんだけど」
「……ここ9年ほど負けっぱなしか」
 不憫だ。
「最近は泣いてる時間が長くなってなかなか進まないしね」
「いい加減自分がいやになるだろ、普通」
 それだけ負け続ければ自信もくそもないぞ。
「なんでこんな事をしてるのか思い出せば解決だろ。ちょっと行ってくる」
「うん。わたしもちょっと飽きてきたから」
 そうと決まれば善は急げ、というやつ。
 
 ちょっと迷いつつも舞のところへと辿り着いた。
「よぉ、舞」
「はぁい、舞」
「…………ぐしゅっ」
 リノリウムの床にぺたりと座り込み、制服の袖で目元をぐしゅぐしゅとこすり涙している。
「舞、俺のこと覚えてるか?」
「……覚えてる」
「はじめて会ったのはいつだ?」
「……この前の夜」
 俺とまいは肩をすくめる。
「それじゃ……10年前のことは?」
「覚えてないよ、忘れてる」
 うさ耳をふよふよと揺らしながらまいが答える。
「なんだ、薄情だな。あんだけ『祐一〜祐一〜』って金魚の糞みたいにくっついてたのに」
 舞はなんのことか理解出来ていないらしく、眉をひそめている。
「あれだね、インプリンティング。はじめて友達が出来たのと、たまたまその時優しくしてもらったから」
「……棘を感じるな」
「だって、かなりボコボコにされたもん。ヘマするたびにゲンコは痛いよ?」
「愛の鞭だ」
「愛憎一体って言うし。一皮剥けば憎しみの鞭ってことで」
「ふむ、言い方が悪かったな。ありゃおまえが全面的に悪かったんだ。
 それを正しいことと認識しないように拳で言い聞かせたんだよ」
「……なんだ、けっこう考えてたんだ。わたしのこと」
「あたりまえだ。おまえの力はかなり危ないものだったからな」
 ヘマすりゃとばっちりはこっちにも来るしな。
「でも拳で言い聞かせるっていうのも、言葉的に変だよね。言ってないもん。
 むしろ武力行使。どっかのお国と変わんないよ。そのうち制裁受けちゃうね」
「……おまえ口悪くなったな。というかそういう危険な発言はすんな」
 襟首を掴んで持ち上げ、片手で抱きかかえる。
 まいは歳のわりにあまり大きくないし、軽い。
「まだ思い出さないのか、舞?」
「じゃ、あれは? 『まずは喉を潰せ』」
「『声を出させるな、悲鳴を聞かれる。目を潰せ、何も見せるな。膝を潰せ、どこへも逃がすな』」
「…………『さぁ、料理の時間だ。楽しいか? 怖いか? 怯えろ。泣け。パーティはこれからだ』」
「なんだ、覚えてるじゃないか」
「『血を吐いて叫べ。命乞いをしろ。泥をすすれ。少しは慈悲をやろう』なんつってねっ」
「思い出した……あのときの祐一は……祐一だったの……?」
「そうだよ。いままでご苦労さん。もうこんなことしなくていいぞ、俺はここにいるんだからな」
「…………うん」
 舞はぽろぽろと涙をこぼす。
「泣くなよ、舞……泣いたらなんだっけ?」
 さっ、と額を隠す舞とまい。
「覚えてんだな」
「既に条件反射だよ」
 こくこくと舞は頷く。
「さて、10年越しの問題も解決したし、帰るか」
「うんっ」
「……ん」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「それにしても極悪な科白吐いてたよね」
「科白が真っ黒だな」
「(こくこく)」
「子供心にトラウマ抱える要因だね」
「対象が人間じゃなかっただけありがたいと思え」
「(こくこくこくこく)」
 
 
 
 
 


あとがき

子供というのは思いの外残酷なものです
そのことと内容が支離滅裂なのはあまり関係ない問題
説明の足りない箇所がいくつかありますがあまり考えない方向で
 
#舞と初めて会ったのは10年前、とのこと
 シナリオ読み返したら思いっきり書いてました
 う〜ん、読み飛ばしていたようです……反省
 ひろさん、情報ありがとうございます
 こういったボケは他にもしているはずです
 もし見つけましたらお知らせを〜

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