『朝〜、朝だよ〜』
 
 ぶんっ
 
『朝ごしゃぁ…………食べて学校行くよ〜』
 
「破っ」
 
『あごしゃっ
 
 …………
 
 ……てっきり昨日ので成仏したのかと思ったんだが。
 随分と頑丈な目覚ましだ……
「……手が痛ぇ……」
 堅すぎ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
GEDOU 
    〜 奥さん、外道ですよ 〜
 

ツナギノキュウ 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ちりりりり……
 
「…………?」
 なんだ?
 
 ちりりりり……
 
「……あぁ、アホの目覚ましか……昨日全部抜いたと思ったけど、漏れてたか……?」
 
 ちりりりり……
 
「…………」
 
 ちりりりり……
 
「…………」
 もぞもぞと布団から這い出し、制服に袖を通して準備を整える。
 
 ちりりりり……
 
「……耳障りな音だ……」
 あのアホはまだ起きてないのか?

 ちりりりり……
 
「…………」
 
 ちりりりり……
 
「…………」
 俺は部屋を出てアホの部屋へ向かう。
 
 がちゃ
 
「…………く〜〜」
 ……寝ている。
 とりあえず、最後の目覚まし時計の電池を抜いておく。
「…………」
「く〜〜〜」
 幸せそうに寝てやがる……むかつく。
「おい、起きろ」
「く〜〜〜〜〜」
 げしげしと蹴りながら呼びかける。
「おい」
「く〜」
「……………」
 起きやしねぇ……
 今度は布団の上からもぞもぞとアホの体をまさぐる。
「うにゅ……ぁ……そこ……」
「……ここか」
 俺は右腕を真上に突き出し、左手で右の手首を握る。
 そのまま体ごと人体最大の急所の一つ、水月へ突き刺すように肘を振り下ろす。
「死ねっ」
 
 どずむっ
 
「だっ…………だお…………」
 
 反動で跳ね上がった手が、ぱたりと下ろされる。 
 アホの断末魔は声にならない声だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「おはようございます」
 台所で朝食の準備をしている秋子さんの背中に挨拶をしながら、自分の席に座る。
「おはようございます、祐一さん」
 台所から、皿を持った秋子さんが顔を出す。
「名雪、まだ寝ていました?」
「一応、降りてくるときに声はかけましたけど」
 声をかけたというか、武力行使だけどな。
 永眠しかねない勢いで。
「だ、だお〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
 静かな水瀬家に響き渡るアホの悲愴な叫び声。
 字面に緊迫感は全くないが。
「…………なんでしょう?」
「さぁ? 大方、地獄でも見てるんじゃないですか?」
 比喩ではなく。
「そうですか……私も見てみたいですね」
「秋子さんなら、俺が天国見させてあげますよ……」
 微笑み。
「…………」
「秋子さん、鼻血鼻血」
「――はっ、ご、ごめんなさいね……」
 ……どんなことを想像したのか見てみたいものだ。
 
 がちゃっ
 
 どたどたどた
 
 がっ
 
 ごっ
 
 ごとん
 
 ごっとん
 
 ごっとん
 
 ごっとん
 
「だ、だお……」
 ぷしゅ〜、とでも擬音を付けたくなるくらいの目の回し方だな。
 頭を下にして、階段にごろりと転がっている。
 漫画とかでよくありそうな格好だ。
 ……予想通りというか、予想以上の反応というか……
「…………く〜〜」
 
 どすっ
 
「だ、だおっ」
 蹴った。
「寝るな」
「あらあら」
 秋子さんはじゃれ合う子猫でも見るように微笑んでいる。
 ……なんとも思わないんだな。
「…………いま、蹴った?」
「なにを言ってるんだ、名雪?」
 微笑み。
「…………えへ…………あ、ううん、なんでもないよ〜」
「そうか? それじゃ、学校行くぞ」
「うん……でもなんでか、胸というか、お腹というか……真ん中が痛い……」
「また寝ぼけてたんだろ」
 逆さになっているアホの襟首を掴み、思いきり持ち上げる。
 形としては『片手ネックハンギングツリー』
「…………くるしい…………」
 チョーク入ってるし。
 そのまま手を離すと、すとんと床に落ちた。
「早く来い、置いてくぞ」
 そう言ってさっさと玄関へ向かう。
「あ……え? あ、ゆういち……?」
「ん? どうしたんだ?」
「あ、うん……わたし、まだ朝ご――」
「まさかとは思うが、寝坊して遅刻しそうなときに呑気に朝食をとりたい、とか、言わないよな?」
 微笑み。
「…………えへ…………あ、言わないよ。わたしも流石にそこまで非常識じゃないよ〜」
 『流石にそこまで』と言うことは少しは自覚してるんだな。
 ……いや、自覚してるかは怪しいもんだ……
「そうか? それじゃ秋子さん、行って来ますね」
「お母さん、いってきま〜す」
「はい、いってらっしゃい。祐一さん、浮気はいけませんからね」
「なにを言ってるんですか。俺は秋子さんだけしか見てませんよ……」
 極上の笑み。
「……………………」
 ふん、まだまだ甘いな。
 なんとか俺を負かそうとしているようですが、甘過ぎです、秋子さん。
「お母さん、鼻血鼻血」
「――はっ、い、いけないいけない……」
「……くれぐれも、留守の間は気を付けてくださいね」
 なんか心配になってきた。
「大丈夫だよ〜」
「大丈夫ですよ」
 名雪は糸目でほえほえ〜としながらそう言った。
 秋子さんは秋子さんで、鼻にティッシュを詰めながら言っているのでいまいち説得力が無い。
 ……ホントに大丈夫かよ……
「……頼みますよ……名雪、行くぞ」
「わかってるお〜」
 結局、時間ぎりぎりでの登校になってしまった。
 …………お〜〜?
「お〜〜ってなんだ?」
「なに言ってるかわかんないお〜」
 
 ごっ
 
「だ、だおっ」
「なんなんだ?」
「い、いたた……あ、あれ? いつの間に外に?」
 ……寝てたのか?
 …………つまり、糸目で語尾が『お〜』は睡眠中って事なのか?
 
 
 
 
 
 …………
 
 
 
 
 
 …………
 
 
 
 
 
 寝ながら行動出来るのか、こいつは………
「……ふしぎ」
「いいから、行くぞ……時間は?」
「えっと……8時7分」
「歩いてもなんとか間に合いそうだな」
「……うん」
「念のため走るか?」
「……お腹すいて走れないよ」
「学校行ったらいいもん食わせてやるから、我慢して走れ」
「……いい、もん……」
 
 にへらっ
 
「走る」
「じゃ、こい」
「うんっ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「到着っ。ゆういち〜、いいもんってなに〜?」
「あ〜、教室行ったらな」
「そんな……教室で……?」
 頬を染めて体をくねらせながらそう言った。
 …………なにを考えているんだ……?
 
 昇降口で靴を履き替え、教室へと向かう。
 途中すれ違う生徒に、中には何となく覚えのある顔もあった。
 たぶん、クラスメートなのだろう。
「おはよう〜」
「あ、水瀬さんおはよっ」
 どうやら間違いないらしい。
「相沢君も、おはよう」
「あぁ、おはよう、白石さん」
 微笑み。
「…………」
「……どうしたの?」
 名雪が白石さん(確か)の顔の前で手を振る。
「……なんか、動かなくなっちゃった」
「気にするな、油切れだ」
「……美佳ちゃん、ひとじゃないんだ……知らなかっ――」
 
 ごっ
 
「だ、だおっ」
「冗談に決まってるだろ?」
「いたた……ゆ、ゆういち〜」
 そんなやりとりを、数人の生徒がにこにこしながら見ていた。
 どれも見た覚えのある顔だった。
「……どうも、名雪のせいで変な先入観を持って見られてるような気がする」
「わたし、何もしてないよ」
「そうそう」
「あ、おはよう〜」
「おはよっ、おふたりさんっ」
 いつからいたのか、香里が名雪に抱きつきながら登場する。
「相沢君、あんまり名雪を困らせたら、め〜よ」
「うんうん」
 め〜よ、って……
「名雪のおかげでクラスに馴染んでるんだから、もっと感謝しないと」
「うんうん」
 まぁ、確かに香里の言うことも一理あるかもしれない。
「……別に馴染めないのならひとりでいるから構わないんだけど」
「ひとりは寂しいよ……」
「そうそう」
 悲しそうに呟く名雪に、もっともらしく頷く香里。
「あっ、もう石橋来たわよっ」
 香里が廊下の向こう側を指さす。
「石橋って誰だ?」
「担任の名前くらい覚えておきなさいよっ」
「あれ? さっき美佳ちゃんの名前呼んでたよね、もう憶えたの?」
「……まぁ、クラスのやつの名前くらいは知っておかないとな」
「その割りには先生の名前は知らなかったみたいね?」
「…………」
 揚げ足ばっかり取りやがって……
 いつかへこます。
「な、なによ」
「いや、なんでもないぞ?」
「あー、全員席に着け」
 と、ちょうど担任の先生が教室のドアを開けて入ってきた。
「ホームルーム始めるぞ〜」
 そして1日の始まりのチャイムが鳴る。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「白石〜、白石美佳〜……いないのか? ……白石遅刻、と」
「美佳ちゃんまだ廊下で固まってるよ……」
「なにがあったのかしらね……?」
 なんだろうねぇ……
 
 
 
 
 
 


あとがき
 
 
う〜む
ネタが弱いですか……?
批評お待ちしております…… 

 

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