「……また、やったな?」 
 笑顔のままで、そう問う。 
「…………にへ…………あ、うん、やっちゃった……」 
 
 どす 
 
 とりあえず、腹に一発。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
GEDOU 
    〜 奥さん、外道ですよ 〜
 

ツナギノロク 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「うぐっ……」 
「昨日言ったよな? こんどやったら……」 
 
 どす 
 
「うぐっ」 
「店主に突き出すだけじゃ……」 
 
 どす 
 
「うぐっ」 
「済まさないよ、って……」 
 
 どす 
 
「うぐっ」 
「……さて、どうしてほしい?」 
「…………ぽ」 
 
 どごっ 
 
「うぐぅぅぅっ……」 
「なぁ、あゆあゆ」 
「う、うぐぅ……あゆあゆじゃないけど……なに?」 
「いくら小学生でもな、やって善いことと悪いことくらい分かるだろ、ん?」 
「分かるけど……うぐぅっ、ボク小学生じゃないよっ」 
 嘘を吐くな。 
「俺もおまえが子供だから、紳士的に対応しているわけだ。 
 それが、自分は子供じゃありません、と言うわけだな?」 
「うぐぅっ、ボ、ボク子供っ、しょ、小学生ですっ」 
「……そうか、おまえは、悪いことと知りながら盗みを働いているわけだ」 
「……うぐ……」 
「……もう、だめだな。いくら温厚な俺でも、見逃すわけには行かないな」 
「うぐぅ……結局、だめなの……?」 
 
 ずむっ 
 
「うぐぅっ」 
 意識を失ったあゆあゆの体を肩に担ぐ。 
 軽いな、小学生。 
 と、容疑者を連行しようとしたところ、後ろからエプロンをしたオヤジが走ってくる。 
「ぜはっ、ぜはっ、ぐ……はぁ……に、兄ちゃん……ありがとよ……」 
「ん? あぁ、たい焼き屋のオヤジか」 
 昨日あゆあゆを突き出したオヤジだな。 
「ごほごほっ……助かったよ……さ、こっちに渡してくれねぇか。 
 流石に二度目は見逃せねぇしな。今度はきっちりとお仕置きだぁ…… 
 そいつには社会の厳しさってもんを、たぁぁぁぁ……ぷりと、おしえないとなぁ……」 
 粘っこい声と視線であゆあゆを視姦する。 
 ……このオヤジ…… 
「ぐはは……小学生なんて、久しぶりだねぇ……お、兄ちゃんも一緒にどうだい?」 
 
 
 
 
 
 ………… 
 
 
 
 
 
 とす 
 
 どさ 
 
「…………」 
 無言でオヤジの首筋に手刀を叩き込む俺。 
 無言で倒れていくオヤジ。 
「……流石のこの俺でもこのオヤジにあゆあゆを渡せない…… 
 つーか、俺に良心というものがあったのが驚きだよ……」 
 ホントに。 
「……逃げよう」 
 顔を覚えられる前に現場から逃走を図る。 
 あゆあゆを肩に担いだままで。 
 ……目立つ…… 
 一見すれば、娘を返してくれと泣き崩れるオヤジを振り払い、子供を連れ去る、の図だな。 
 
 
 
 
 
 ………… 
 
 
 
 
 
 ……可及的速やかにこの場を立ち去るべし。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「……またか? またなのか?」 
 周りは見たこともない景色。 
 人影もなく、寂しい通り。 
 ……迷いました…… 
「……俺は方向音痴か? そうなのか?」 
 いや、違う。 
 ここは見たこともない場所だからこそ迷うんだ。 
 うん、絶対そう。 
「……かといって、道が分かるわけでも無し……ひとに聞くにもひとが居ない……」 
 
 
 
 
 
 ………… 
 
 
 
 
 
 ………… 
 
 
 
 
 
 いるじゃん。 
 肩に。 
「おい、あゆあゆ」 
「うぐぅ……」 
 ……起きないな…… 
 とりあえず地面に放って街路樹に背を預けさせる。 
「おい、起きろ」 
 ぺしぺしと頬を叩く。 
「うぐ、うぐ」 
 
 ぺしぺし 
 
「うぐ、うぐ」 
「おい、あゆあゆ」 
 
 べちべち 
 
「うぐっ、うぐっ……あゆあゆじゃ、ない……」 
 
 べちべち 
 
「うぐっ、うぐっ」 
「…………」 
 
 どずっ 
 
「うっ……ぐぅ……」 
「……起きたか?」 
「…………なんか……お腹とほっぺが痛い……」 
「気のせいだろ、ほれ、立て」 
「……この痛みは気のせいで済むレベルじゃないよ……」 
 まぁ、結構本気出したし。 
「いいから、立て」 
 そう言って手を差し出す。 
「……うん」 
 そして俺の手を握ったところで先ほどのことを思い出したのか、体を引こうとする。 
 が、俺は手を握っている。 
「う、うぐぅっ」 
 
 じたばた 
 
 じたばた 
 
 じたどす 
 
「……うぐ……」 
「あゆあゆ?」 
 微笑み。 
「あゆあゆじゃ…………にへ…………あ、なに?」 
 今まで暴れていたのはどこへやら。 
「とりあえず、今までの犯罪は見逃してやる」 
 そのうち社会の厳しさを知ることになるかもしれないからな。 
「……うぐぅ……うん、ありがと……」 
「でも、もうやるなよ? そのときは、ホントにどうなっても……」 
「う、うんっ、もももうやらないよっ」 
「そうか、よし、いい娘だ」 
 優しく微笑みながら頭を撫でる 
 俺は言うことを聞かないガキは嫌いだ。 
 あゆあゆみたいな素直な子なら、好きだけどな。 
「うぐ……」 
 
 なでなで 
 
「さて、あゆあゆ。ここがどこだか分かるか?」 
「うぐぅ……あゆあゆじゃ、ない……」 
「ん? なにか言ったか、あゆあゆ?」 
「…………にへ…………あ、ううん、なんでもないよ」 
「そうか、で、分かるのか?」 
「……見たこと無いよ……」 
 使えやしねぇ…… 
「……もしかして、キミも見たこと無い――」 
 
 どす 
 
「……うぐ」 
「目上の者にキミか?」 
「うぐっ……ご、ごめんなさい……じゃぁ……なんて呼べばいいの?」 
「妥当なところで祐一さんか、祐一お兄ちゃんだろ」 
「……うぐぅ……じゃぁ、おにいちゃん」 
 ……なんか、背中がかゆい。 
「おにいちゃんも、ここ見たこと無いの……?」 
「無いよ。地元の人間が知らないのに、最近引っ越してきた俺が分かるわけないだろ」 
「え、そうなの?」 
「なにがだ?」 
「引っ越してきたって……」 
「あぁ、前はちょっとだけここに住んでたけどな」 
「……七年前?」 
「なんで知ってる……?」 
「もしかして……祐一君――」 
 
 どす 
 
「……うぐ……祐一、おにいちゃん……なの?」 
「……そうだが?」 
「そっ……か……」 
 俯き、声を落とす。 
 小さな肩が小刻みに揺れている。 
「……どうしたんだ、あゆあゆ?」 
「もしかしたら、そうかもしれないって……思ってたけど……」 
 なにがだ。 
「名前……一緒だし……それに、変な男の子だし――」 
 
 どす 
 
「……うぐ……もとい、微妙な優しさだし、昔の、ボクが知ってる頃の、ホントそのまんまだったし……」 
 微妙か。 
「帰ってきて……くれたんだね……ボクとの約束、守ってくれたんだね……」 
 ふとよぎる、子供の頃の記憶。 
 
 雪 
 
 泣いている女の子 
 
 たい焼き 
 
 夕焼け 
 
 そして…… 
 
「……あゆあゆ……そうだ、いたな、そんな名前のやつ……」 
「……うんっ、久しぶりだねっ」 
「あぁ、ホントに久しぶりだ」 
 すでに記憶は薄れている。 
 この少女が居たという記憶しかない。 
 でも、それだけでも十分だろう。 
「お帰りっ、祐一……おにいちゃんっ」 
 雪を蹴って俺の方に両手を伸ばすあゆあゆ。 
 それをよける俺。 
「え」 
 
 ごす 
 
 俺の後ろには偶然にも木があった。 
 当然、勢いのついたあゆあゆはそれに顔面から突っ込む。 
「…………」 
「……反応がないな」 
「……うぐ……」 
 ずる、と崩れ落ちていく。 
「……自業自得、だろ?」 
「うぐぅっ、全然違うよっ。今のはおにいちゃんが悪いぃ〜」 
「……あゆあゆ?」 
 微笑み。 
「…………にへ…………あ、ううん、今のはボクが悪いのかな?」 
「そうか、まぁ、それなら仕方ないよな」 
 と、そのとき、どさっと雪の落ちる音が聞こえた。 
 
 どさ……どさ…… 
 
「きゃっ」 
 そして女の小さな悲鳴。 
 音のしたほうを見てみると、そこには少女が一人、座り込んでいた。 
 ……これは――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「おいあゆあゆっ、見てみろ。いまどき無いぞ、こんなの」 
「あ、ホントだっ。いまどき漫画でもねぇよっ、ていうくらいベタな登場っ」 
「え、えぅ〜〜〜〜」 
  
 
 
 
 
 
 

 
あとがき 
 
なんか……たのしい 
あゆどつき 
あゆはツッコミどころ多いから殴りやすいし 
もうぼこぼこ 
 
あと、あゆに「おにいちゃん」と呼ばせたのは趣味ではないです 
小学生の子供に自分を呼ばせるとしたら、「お兄さん、姉さん」が妥当なところでは? 
バリエーションに「お兄ちゃん、お姉ちゃん」があるというわけですな 
……批評お待ちしております……
 
 

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