「大丈夫か?」 
 俺はそう言うと少女の元へ走り寄る。 
「…………」 
 少女は微動だにせず俺の方にどろりとした視線を送っている。 
「…………大丈夫なのか?」 
 ホントに。 
「え……あ……」 
 ようやく、と言った感じで少女が反応する。 
 が、それ以上の言葉は出てこない。 
 
 
 
 
 
 ………… 
 
 
 
 
 
 ………… 
 
 
 
 
 
「ふぬっ」 
 
 どすっ 
 
「えぅっ」 
 
 気合い一発。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
GEDOU 
    〜 奥さん、外道ですよ 〜
 

ツナギノナナ 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 この女も変な鳴き声だ…… 
「……大丈夫か?」 
 そして同じ科白を繰り返す。 
「自分でボディーにキめといてそれはないんじゃ――」 
「あゆあゆ?」 
 微笑み。 
「…………にへ…………あ、なんでもないよ。続けて続けて」 
「…………」 
 少女は相変わらず無反応。 
 魂抜けてんのか? 
「……あゆあゆ」 
「なに?」 
「どうすればいいと思う」 
「そこの雑木林に埋めるとか?」 
 
 どす 
 
「……うぐ」 
「殺してねぇよ」 
「……これからヤるのかと」 
 
 どす 
 
「うぐっ……」 
「…………」 
 俺達のやりとりを――というか、俺を見たまま動かないこの女をどうするか…… 
 …………埋め――いや、それは最後の手段。 
 
 
 
 
 
 ………… 
 
 
 
 
 
 むに 
 
 頬を引っ張ってみる。 
「……い、いらいれふ……」 
「あ、喋った」 
 そりゃ喋るっつーの。 
「さっきから、大丈夫かと聞いているんだが」 
「……あなたは……」 
「ひとの質問には答えろよ」 
「運命を信じますか?」 
「………………運命? ……まぁ、俺は運命論者じゃないけど、信じる方かな」 
 どういう脈絡が? 
「……やっぱり、そうなんですね……」 
「…………は?」 
「私たちは前世で恋人だったんです、これが運命と言わずなんと言うのでしょう……」 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「今日はどうしてこんなにも夕焼けが綺麗なんだろう」 
「う、うぐっ、そそうだね……」 
「ここがどこかも知らないが、そんな中を散歩しながら歩くというのもいいとは思わないか?」 
「さらにドツボにはまりそうな気がしないでもないけど、そんな気がしてきたよっ」 
「そうか、じゃ、あてのない散歩へと行くとするか」 
「うんっ」 
 
 がし 
 
「待ってください」 
「う、うぐぅっ、おにいちゃんっ、たすけて〜〜」 
「……南無」 
「見捨てるのっ? 見捨てちゃうのっ!?」 
「自業自得だ」 
「どこがっ!?」 
「そもそもあゆあゆが木に特攻かけなきゃ起きなかった事態だ。自分でなんとかしろ」 
「うぐ〜〜」 
「ちょっとした冗談じゃないですか〜、真に受けないで下さい〜〜」 
 と、それを少女が遮った。 
「……そうなの?」 
「あたりまえですっ」 
 ……つまらん。 
「うぐっ、おにいちゃんっ。なに、その、つまんねぇ……って顔はっ」 
「そんなことないぞ?」 
 微笑み。 
「…………」 
「…………」 
「それはそうと」 
 俺は少女の方に向き直る。 
「あ……なんでしょう……」 
 頬を染めてモジモジとじながらそう言う。 
「……拾わなくていいのか?」 
「あ……」 
 足下には少女の荷物が散乱したままだった。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「えぅ……すいません……わざわざ拾っていただいて……」 
「いや、悪いのはあゆあゆだからな、気にしなくていい」 
「うぐ……ボクだけ悪者……」 
「悪者って言うか、悪人だよな」 
「そんなことないよ、ボクはいい子だもん」 
「ほう、いい子というのは俺の忠告を無視して何度も犯罪を繰り返すのか?」 
「うぐっ…………ボク悪い子……」 
 えぐえぐと泣くあゆあゆ。 
 ストールを羽織った少女は、俺たちのやりとりにどう反応したらいいのか分からず困っているようだった。 
「……まぁ、気にしないでくれ」 
「……わかりました……ところで」 
 少女は俺に一歩近づく。 
「なんだ?」 
「これからお暇ですか?」 
「……まぁ、暇と言えば暇だが」 
「でしたら私の家に来ませんか? お礼もしたいですし」 
「……それは――」 
「あぁっ、やっぱりこれは運命なんですっ、神様ありがとう…… 
 お姉ちゃんに無視され続けて早数ヶ月……私にも春が来ました…… 
 もう大丈夫。私にも希望が見えましたっ。こんな病気なんかちょいちょいっと治して見せますっ。 
 そして運命のあなたと……きゃっ、もう……そんな……」 
 
「…………」 
 
「…………」 
 
「『ほら、栞、あーん』 
 『……恥ずかしい』 
 『そんなこと言っても、食べないと元気が出ないだろう?』 
 『そうだけど……』 
 『……仕方ないな』 
 そう言ってお粥を自分の口に入れるあなた。 
 『ん……』 
 『……これならいいかい……?』 
 『……もっと、下さい……』 
 『いいよ……』 
 とかしちゃたりしちゃったり。きゃっ」 
 
「……おにいちゃん……」 
 
「…………」 
 
「『汗かいたろ、着替えるか?』 
 『うん……』 
 『……じゃ、俺は外にいるから、何かあったら呼ぶんだぞ』 
 『ねぇ……』 
 『なんだ?』 
 『着替えさせて……欲しいなぁ……』 
 『……ふぅ、栞は甘えん坊だな……』 
 『だってだってぇ……』 
 『わかったよ、ほら』 
 あなたの指が私の肌の上を滑るように愛撫する。 
 『あ……』 
 『どうしたんだ? 変な声を出して』 
 『だ、だって……』 
 『えっちだな……栞は』 
 そしてあなたのその指は私の――ぶっ 
 あ、いけない……鼻血が……」 
 
「……ね、ねぇ……おにいちゃん」 
 
「…………」 
 
 ごしごし 
 
 ごしごし 
 
 つめつめ 
 
 つめつめ 
 
「――ということで、さぁ、私の家にレッツごすっっ 
 どさ、と雪の上に倒れる暴走電波女。 
「……今のはボクでもやりそうだったけど、流石にそれはやりすぎじゃないかな……」 
「…………帰るか」 
 
 
 厚く積もった雪の中に横たわる少女 
 周りには点々と鮮やかな紅 
 夕焼けが、全てを染める 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「えぅ……二時間ドラマの最初に殺されるチョイ役みたいです……」 
 ドラマみたいでかっこいいです……か……? 
 
 
 
 
 
 
 

 
あとがき 
 
短っ 
プレーンテキストで4.5kbほど(改行含めず) 
外道も少ないし 
っていうか栞暴走してるし 
「あなたは運命を信じますか?」 
面と向かってこう言う人間は結構やばい人種です 
逃げましょう 
 
 
 

SS index / this SS index / next 2001/12/26