カチッ 
 
『朝〜、朝だよ〜』 
「ふんっ」 
『朝ごしゃぁ 
 枕元から聞こえてきたアホな声に思わず一発。 
「……なぜあいつの声が……」 
 と、枕元を見ると目覚まし時計がなぜか半壊している。 
 それを手にとってよく見ると録音と書かれたボタンがあった。 
「……もしかしてこれか」 
 自分の声を録音してそれを目覚ましに使えるタイプらしい。 
 
 カチ 
 
『あザァっ、あザァっだよぉぉぉぉおお』 
 地獄の底から聞こえてくるようなおどろおどろしい声。 
 
 ばきゃ 
 
 せめて、俺の手で安らかに…… 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
GEDOU 
    〜 奥さん、外道ですよ 〜
 

ツナギノヨン 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ジリリリリリリリリッ 
「……なんだ?」 
 突然聞こえてきた目覚まし時計のベル音。 
 しかも大音量。 
 ジリリリリリリリリッ 
「……あのアホの部屋か」 
 ジリリリリリリリリッ 
「…………」 
 ジリリリリリリリリッ 
「…………」 
 ジリリリリリリリリッ 
「…………」 
 俺は無言で部屋を出て名雪の部屋へ向かう。 
 
 がちゃ 
 
 中には何事も無かったかのように眠る名雪の姿。 
 
 ……むかっ 
 
 とりあえず片っ端から時計の電池を抜いて外に放り投げておく。 
「……これで静かになったな」 
 そしてまだ寝ている名雪。 
「……このやろう」 
 蹴る。 
「……ぁ……もっと……」 
 
 ぶち 
 
 蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る 
 
「だおっ、だおっ、だおっ」 
 
 蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る 
 
「だおっ、だおっ、だおっ」 
 
 蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る 
 
「だおっ、だおっ、だおっ」 
 
 蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る 
 
「だおっ、だおっ、だおっ」 
 
 蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る 
 
「だおっ、だおっ、だおっ」 
 
 蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る 
 
「だおっ、だおっ、だおっ」 
 
 蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る 
 
「だ……だお〜〜〜〜〜〜」 
 気の抜けたアホの声が水瀬家に響き渡る。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「おはようございます、祐一さん」 
 一階に下りると秋子さんが笑顔で迎えてくれる。 
 俺は挨拶を返しながら、手近な椅子に腰かけた。 
「名雪、まだ寝てましたか?」 
「いえ、起きました」 
「……え?」 
「起こしましたよ」 
「……冗談がお上手ですね、あれが起きるわけないじゃないですか」 
 酷いことを言う。 
 実の娘だろうに。 
 ぱくぱくと用意されたトーストを囓りつつ続ける。 
「あまりにもうるさかったので、天誅を」 
 
 ぱくぱく 
 
「……なにをしたんですか?」 
 興味津々という顔で聞いてくる。 
 なぜか頬を赤く染めて。 
「……聞きたいですか?」 
「えぇ、是非っ」 
「……秋子さんの予想は?」 
「……そ、そんなこと口に出して言えませんっ」 
 きゃっと体をくねらせて悶える。 
 ……口に出せないようなことを、俺はあんたの娘にしたのか。 
 秋子さんの脳内ではえらいことが展開されているらしい。 
「……ただ物理的手段にでただけです」 
「……それだけですか?」 
「それだけです」 
 がっくりと肩を落とす。 
 ホントに残念そうですね、秋子さん。 
「……おはようございます〜」 
 ようやく着替え終わった名雪が降りてきた。 
「ホ、ホントに起きてます……」 
「う〜〜、おかあさん、なんか酷いこと言ってない?」 
「いいから、飯食え。時間無くなるだろ」 
「あ、うん……ねぇ、ゆういち」 
「なんだ」 
 
 もごもご 
 
「なんでか体の隅々が痛むんだけど」 
 
 もごもご 
 
「寝ぼけてベッドから転がり落ちたんじゃねぇの」 
 
 もごもご 
 
「そうかな〜……いちごじゃむおいひ〜〜……」 
 
 もごもご 
 
「ごちそうさまです、秋子さん」 
「はい、おそまつさまです」 
「先行ってるぞ、時間無いし」 
「学校の場所わかるの?」 
 知らねぇ…… 
「早く食え」 
「むりだよ〜〜」 
「後五秒で食ったらご褒美」 
「ごちそうさま。お母さん、いってきま〜す」 
 ……早すぎなんだよ…… 
「いってまいります、秋子さん」 
「はい、いってらっしゃい」 
 二人そろって外に出る。 
 
 ――痛っ 
 
 いや、寒すぎだって。 
「……時間大丈夫なのか?」 
「まじダッシュかければ間に合うよ」 
 
 ご 
 
「だ、だおっ」 
「いそげ」 
 アホの背中を押し、急かせる。 
「ゆ、ゆういち……いたい……」 
「痛いのはどうにでもなる。時間は戻りはしない」 
「……うん」 
 
 たたたたたた 
 
「……しかし、寒い」 
 走りながらそんなことをもらす。 
「今日は暖かい方だよ」 
「……ここは日本か?」 
「日本だよ〜」 
「……最高気温が氷点下とかだな」 
「デフォだよ〜」 
 マジかよ……こんな中毎日通うのか…… 
 
 途中何度かアホをどつきつつ、なんとか時間には間に合った。 
「……ここか」 
「そうだよ、ここが今日からゆういちの通う学校」 
 周りを見渡せば名雪や俺と同じ制服姿の生徒達が目に入る。 
 女子の制服は学年ごとにリボンの色が違うらしい。 
 名雪は赤。 
 ということは二年は赤のリボンか。 
「名雪っ、おはよっ」 
 ぱし、と背中を叩きながら挨拶をする。 
「あ、おはよ、香里」 
 香里……友達みたいだな。 
「久しぶりねぇ、元気だった?」 
「元気だけど、久しぶりじゃないよ。おとといも電話したよ」 
「直接会うのは久しぶりって意味よ」 
「今週の火曜日に一緒に映画観たよ、たしか」 
「3日会わなかったら立派に久しぶりよ」 
「……そうかな?」 
「そう言えば、さっきから気になってたんだけど……」 
 くるっと俺の方を向く。 
「この人は?」 
「……おれか?」 
「わたしのいとこの男の子だよ」 
「……ああ、電話で言ってた人ね」 
「今日から一緒にこの学校に通うんだよ」 
「そっか、そうなんだ」 
 うんうんと頷く。 
「初めまして、美坂香里。香里でいいわ」 
「相沢祐一。どう呼んでも構わない。宜しく、香里……」 
 そう言って極めて指向性の高い特殊な笑みを浮かべる。 
「…………」 
「それにしても、名雪の友達がこんな可愛い娘だとはね。驚き」 
「……………………」 
「香里?」 
「あ、俺は職員室行かないと。じゃぁな」 
「うんっ……一緒のクラスになれるといいね……」 
 いいわけあるか、アホが。 
「香里と同じならいいけどな」 
「おなじだよ〜」 
 同じクラスかよ…… 
「時間無いだろ、おまえらも急げよ」 
 そう言ってさっさと昇降口の中へ入る。 
「さて……職員室?」 
 すでに周りに生徒の姿はない。 
「……どこだろうな」 
 いきなり路頭に迷ってみたり。 
 
 通りかかった女生徒を誑し込み、場所を聞き出してなんとか辿り着けた。 
 担任らしき先生の後について二階の教室へと行く。 
「はい、席に着け〜」 
 がたがたと席に戻る音がする。 
「今日は転校生を紹介する」 
 おぉっと教室がざわめく。 
「ちなみに、男だ」 
 一瞬で静まる。 
 ……悪かったな、男で…… 
「相沢祐一君だ。入ってきなさい」 
 呼ばれたようなので教室の中に入る。 
 視線が俺に突き刺さるのが分かった。 
「…………」 
 とりあえず会釈をして先生の隣へ行く。 
「相沢祐一です。以前の学校ではちょっと問題起こして居られなくなったんで 
 こちらに来ることになりました。宜しくお願いします」 
 そして極上の笑顔。 
『…………』 
 笑顔の所為で不穏な科白は聞こえなかったようだ。 
 ちらりと視線を教室の奥に向けると、見覚えのある二人が居る。 
「ゆういち〜」 
 嬉しそうに手を振るアホ。 
「…………」 
 どこか夢見心地で嬉しそうに手を振る香里。 
「あ〜、君はそこのあいてる席に座って」 
「はい」 
 言われた場所は、一番窓側の後ろの方の席。 
 ……隣がアホで、香里が斜め後ろの席…… 
「ゆういち〜、同じクラスだよ〜」 
「……びっくりね……」 
 俺もびっくりだよ。 
「よかったね〜」 
「よかねぇよ……」 
 そして、新しい環境での学校生活が始まる…… 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「香里っ、香里っ。ゆういちはね〜、わたしのご主人様なの〜」 
 なにを吹き込んでいやがる、このアホは。 
 まぁ、あながち間違っていると言うわけでもないか。 
「……うらやましい……」 
 ……アホか…… 
 
 
 
 
 
 
 

 
あとがき 
 
ネタがぁ 
オチがぁ 
外道がぁ 
なんかダメダメ〜 
 
……え〜、このSSの祐一は基本的にはいい人 
応用編は外道な感じに 
……分かりづらい…… 
 
 

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