とはいうものの、天蓋都市に宿泊施設は無いと言っていい。
 唯一、酒場には酔いつぶれた客用に部屋が用意されていたりするため、祐一はそれをあてにしているのだ。もちろん『白い兎亭』にも五部屋ほど用意してある。
「とりあえず片っ端から頼んでみるか」
 祐一はそう呟き、ちょうど目の前にあった酒場に入っていった。
 りりんりん――と、ドアベルの涼やかな音。店内は雰囲気作りのためか窓もなくて薄暗く、柔らかな照明が心地よい明るさを保っている。客の姿はない。店主らしき老人は入ってきた祐一を一瞥し、小さくいらっしゃいと呟く。
「失礼。ここの責任者でしょうか?」
「ええ、そうです。なにかご用で」
「えーとですね、ここに裏部屋はありますか?」
「ありますよ。……もしや外のお方で?」
「はい。あの、もしよければ一室お借りできませんか? もちろんお金は払います」
「おお、そうでしたか。いや、お代は結構。代わりに少しばかり手伝っていただければ、それでいいですよ」
 祐一にとっては渡りに船である。二つ返事でそれを受け、祐一と老人はがっちりと握手を交わす。
「ではしばらくの間お世話になります」
「いや、こちらこそ宜しく頼むよ」





 クラタの街は緑が多い。国土の東半分はひとの住まない『自然』の風景だ。そこは公園と呼ばれ、人々の憩いの場となっている。天蓋近くに円を描いて並ぶ灯火の数は十。それはこの都市が優秀な技師を胞している証であり、ここが豊かな国であることを示している。だからこそこれだけの『自然』を維持できるのだ。
 公園の中――木々に囲まれた場所に大きな建物がある。様々な書物、知識が詰め込まれた、遙かな昔を伝える建造物だ。その蔵書量は途方もなく、ここでわからないことはないとまで言われるほどであった。しかし悲しいかな、その利用客は規模と反比例するように少ない。
 その『図書館』で祐一は熱心に書物を読みあさっていた。
「う゛ーん……」
 がしがしとあたまを掻き、本を閉じる。
「はあ……先はまだ長いな……」
 積み上げられた本の塔を眺め、ため息を吐く。
「ホントにどこにあるのやら。……ま、人生まだまだ始まったばかり。気長に探しましょうね、と」
 ぽん、と本の山に読んでいたものを置く。その中から十冊ほどを残し、あとは元あった場所に返して、司書に貸し出しの許可を取りに行く。さすがにこれだけの冊数をここで読み続けるというわけにはいかないだろう。
 貸し出しのための書類を貰い、祐一は図書館をあとにする。
 十冊程度とは言え、ひとつひとつが厚いため、総重量は結構なものになる。よろよろと覚束ない足取りで宿へと戻る祐一は、どうにも調子の出ないからだに首をかしげる。華奢な見た目通りの体力しかない祐一だが、クラタへ来てからは更に力が出ない。奇妙な倦怠感を常に感じていた。
「あー……疲れてるな、これは。ここのところ働きっぱなしだったし、そろそろ休みに入るか……」
 途中こけそうになりながらも、祐一はなんとか部屋を借りている酒場へと帰ってきた。店主である老人に「しばらく休みます」と告げ、自室へ戻る。
 抱えていた本をテーブルに置いてベッドへ倒れ込むと、溜まりに溜まった疲労感が一気に襲ってきた。
「だる……」
 なにをするにも、体調は万全でなければ意味はない。とりあえず2〜3日の休養を取ろう、と祐一は鈍くなったあたまで考える。
「はあ……彼女のひとりふたり確保しとけばよかった……。こういうときに看病してくれる女の人ってのはポイント高いよなぁ。……うう、虚しい」
 さめざめと呟く祐一。心底そう思っているようだ。
「……とりあえずもう寝よう。時間だけはたっぷりあるんだし、借りてきた本は明日からということで……と自分に言い訳しつつ、おやすみ……」
 祐一は枕に顔をうずめ、近くを流れる小川の音を聴きながら眠りに就く。静かな水音は優しく、心地いい子守唄のようであった。





感想の少なさから如何にこのSSが関心持たれてないか分かります。分かります。
いやこの内容で感想書けって言われても私自身無理ですけど。なに書こうとしてるのかわかりません。