美坂香里はギルド直営の魔術技師育成機関、通称『学園』に所属する2回生だ。その実力は、経験が浅いながらも一流の技師達に引けを取らない。ランクこそまだ発行されていないが、それもあと数ヶ月というところだろう。
 ギルドのシステムの成り立ち上、このランクというのは結構重要なのだ。甲乙丙の3種だけではあるが、制限の幅が違う。その3種もそれぞれ第1類から第4類まであり、取得までにはかなりの実力が要されることとなるわけだ。
 例えばギルドの請け負う業務代行依頼のうち、丙種は失せもの探しなど比較的簡易なもの、現場労働や家事代行などの人材派遣のみと、その制限は大きい。乙種はそれに加えて技師の人材派遣や、依頼業務中のギルドから認証なしでの魔術使用許可など。甲種となれば、その制限はほぼ無くなる。と、業務代行依頼はランクが上がることで請け負うことのできる仕事が増えていく仕組みだ。
 そしてギルドから発行される許可証が甲種第4類になってようやく天蓋都市の外へ出られるようになるのだ。とは言うものの、そうそう国の外に出て行く物好きはいない。天蓋都市にはない貴重な鉱石や薬草などの捜索が精々だろう。
「あれ? 香里ってまだランク貰ってなかったのか?」
 洗い終えたグラスを布の上に並べながら、少しばかり驚いたふうに言う祐一。香里はグラスを傾けながら、手際よく洗い物を済ませていく祐一の姿を眺めて、なんでこんなに様になるんだろう、などと考えていた。
「ええ。特に欲しいとは思わないし、あと3年もあるんだから少しずつ取っていけばいいでしょう? 仕事するのにランクは必要ないもの」
「それはそうだけどさ」
 ランクが必要なのはあくまでギルドの管轄業務内での話だ。もちろんランクを取得していれば多少職の幅は広がるが、だからといって役に立つものでもない。香里にとってランクは有っても無くても同じようなものだった。
「まぁ、一応参考までに聞いておくけど……、甲種4類まで取るの難しかった?」
「どうだろうなぁ。甲種4類は国外に出て死なないだけの知識と力があれば誰でも取れるわけだし。俺の場合は攻防どちらも平均的だから、総合力で合格貰った口だな」
「ふぅん……なんか友達から聞いてたのと違うわね。もっとこう……『超一流!』みたいな人だけが取れるのかと思ってたんだけど」
「そんなもんなの。ギルドは元々都市外に出る人にその力があるかどうかを審査するとこだったんだから。今じゃ何でも屋みたいな感じだけど」
 へぇ、と香里はひとつこぼし、グラスをからからと鳴らす。おかわりの合図だ。
「酒は百薬の長とは言うけどな、飲み過ぎはよくないぞ」
 祐一はそう言いながらも香里のグラスに酒を注ぎ足す。
「これでもまだ足りないくらいなんだからいいの、あたしは。大寒波の時期はうちの区画寒すぎるのよ」
 ぐいとグラスの中身を一気にあおる。なかなかの豪快な飲みっぷりに、祐一はため息を吐く。
「この酒はそうやって飲むもんじゃないんだけどな……」
「なに、なんか言った?」
 ちらりと睥睨する香里。目が据わっている。
「いーえなにも。……そか、大寒波か。まぁ、あと1〜2週間もすれば終わるだろ」
「だからそれまではいつもより多く飲むの。ほら、無くなってるわよ」
「……はぁ」
 なにを言っても無駄だというのはこれまでの付き合いからわかってはいるが、見ている祐一が不安になるほどよく飲む。あきらめの境地とでも言うのだろうか、とりあえず金の払いはいいから言うとおりにしよう、と考えるようになった。
「そういや香里、栞元気してるか?」
 香里には一つ下の妹がいる。最近まで病を患っていたのだが、それももう全快し、この『白い兎亭』にもよく顔を出していた。
「栞ぃ? 元気も元気、元気すぎてこの間事故ったわよ」
「はあ!? ま、マジでか?」
 とんでもないことをサラッと流す香里に、祐一は手に持っていた酒瓶を落としそうになる。
「ええ。それはもう豪快に吹っ飛んだわね」
「ご、豪快に?」
「学園の講義中に炸裂系の魔術使って、どっかーん、と。で、全治2ヶ月」
「思いっきり重傷だろ、それ……。事故っつーか自爆っつーか……」
「……まったく。病気治って調子乗ってるのよ、あの子は。これで自重してくれればいいんだけど」
 自重もなにもしばらく入院生活だろそれは、と思いつつ祐一は引きつった微笑みを浮かべた。
「まぁ、栞のことは置いといて」
「置いておきましょ、栞の事なんて」
 なに気にひどいふたりである。





危険物取扱資格ですか?

ランク制度は、まぁ、強さの目安としてSS界でひろく使われてますが、このSSでは全然強さと関係なかったり。
こんな変なランクでやろうとする物書きあんまいないだろうなぁ…

ちなみに危険物は乙種だけ1〜6類に分かれています。
私は乙4持ってます。これと普通免許でガソリンスタンドのバイトしましたが、時給プラス300円。

それにしても、ファンタジーのくせに片仮名文字少ないなぁ…