ようやく放課後になった。
 石橋の適当なHRはものの数秒で終わり、俺は軽い鞄を掴んで教室を出る。
「あ、ゆういち、忘れ物〜」
 忘れ物?
 って、俺は鞄くらいしか持ってきてないぞ。
「これなにかな……首輪?」
 
 ごすっ
 
「だ、だおっ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
GEDOU
    〜 奥さん、外道ですよ 〜

ツナギノニジュウサン
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 欲しいCDを探すためCD屋を探すのはちょっと何かが間違っていると思う。
 CD屋があって、そこで欲しいものを捜すのが普通のはずだ。多分。
 途中、白い部屋から逃走したあゆあゆを捕まえて尋問したが、手がかりすら見つからないときた。
 素直に名雪に聞くのが一番なんだろうが……なんか屈辱的だから却下。
「……帰るか」
 ぶらぶらとあてもなく商店街を漂うよりは、いい。
 ざり、と地面をこするように商店街の出口へ体を向ける。
「こんにちは、祐一さん」
 
 とす
 
「えぅっ」
 ……最近学んだ教訓。
 危険と感じる前に危険を排除せよ。
 なんか矛盾した言い方だけど。
 ベンチに積もった雪を払い、そこに栞を座らせる。
 周りにひとがいないのを確認して、俺は商店街をあとにした。
 
 う〜ん、CD屋は秋子さんにでも聞くか。
 そんなことを考えながら水瀬家へ続く道を進む。
 時折見える新雪の積もったところを無意味にざくざくと歩き回る。
 まだ誰の手も付けられていないまっさらな処女雪を踏み荒らしたくなるのは、俺だけじゃないはず。
 ……10分程度の道のりを40分かけて進む俺はかなりアホかもしれない。
「ただいま」
 ドアを開けながら通りかかった秋子さんに声を掛ける。
「おかえりなさい、祐一さん」
 そう言って微笑む。
 ”ただいま”
 このフレーズをなんの抵抗もなく言えてしまう自分がいる。
 ここが帰るべき場所と認識したんだろうな、俺は。
 口元を隠すように手を持ってくると、いつの間にかにやついていたのに気が付いた。
「なんでだろうな?」
 ヒゲの一本すら生えていないつるつるの顎をこすりながら2階へ上がる。
「あ、おかえりなさい、ご主人様〜」
 ぼふ、と俺の胸に抱き付いてくる真琴。
「……不覚」
 俺も思わず抱き返してしまった。
 ここは避けるのが俺のポリシーなのに……
「ご主人様ぁ、遊ぼ〜」
 くんかくんかと鼻を鳴らしながら甘えた声を出す。
 誰が遊ぶか、と言おうとしたが思いとどまる。
 晩飯までは何もすることがないし、暇だ。
「……そうだな、たまにはいいか」
 俺は真琴の襟首を掴んでずるずると引きずりながら部屋に向かう。
 それでも真琴は嬉しそうだった。
 アホだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「…………ん? って、もうこんな時間か……」
 時計は8時を指している。
 そういえば、この時間あたりだったか、昨日舞っていうのに会ったのは。
 なんかよく分からない女だったけど、ひとつ気になることがある。
 一緒にいたあのうさ耳を付けた女の子だ。
 どこかであったような、そんな感じがする。
「……確かめるか」
 めんどくさいが、あの子が誰か悩むよりはいい。
 コートを腕に引っかけ、部屋を出る。
「あら、お出かけですか?」
「えぇ、ちょっと。すぐ戻りますから大丈夫ですよ」
「いってらっしゃい」
 俺もいってきますと返し、階段を下りる。
 コートを羽織り、きっちり防寒してから玄関を出る。
 
 ……寒。
 
 ……寒。
 
 ……寒。
 
 ……寒。
 
 ……寒。
 
 ……寒。
 
 ……寒。
 
 一歩踏み出す度に口の中で呟く。
 数えるのも面倒になった頃、ようやく学校が見えてきた。
 校門を飛び越し、職員用の昇降口から校内に入り込む。
 ……静かだな。
 適当に歩き回るが、静かなものだ。
 もしかして今日はいないのか、と思いはじめたとき、しゅ、と目の前を何かが通り過ぎていった。
「…………いた」
 うさ耳の女の子が廊下を爆走している。
 反対側を見れば、舞がめそめそと泣いている。
 ……また負けたのか。
 今回用があるのは女の子のほう。
 ということで、女の子の走り去った方向へ俺も向かう。
 …………どこ行ったっけ。
 
 5分ほど廊下をうろうろしていると、どす、といきなり腹に頭突きを喰らった。
「いった〜い」
「痛いはこっちだっ」
 女の子の頭がちょうど俺のみぞおち辺りにあるため、もろに刺さった。
 しかもスピードの乗った、ナイスなパチキだ
 廊下にひっくり返っているのは、俺の探していた女の子。
「前くらい見て走ってよね」
「おまえが前見て走れ」
 手を差し出しながら言う。
「も〜、首が変になったじゃない」
 と、女の子は俺の顔を見たとたん、固まった。
「どうした」
「……ゆ」
 ゆ?
「……ゆう、いち?」
「あ? なんで俺の名前知ってん――」
 少女の瞳を見た時、今度は俺が固まる。
 ――知っている、この瞳。
 同時に記憶が溢れ出す。
 黄金色の麦畑、見え隠れする兎の耳、黒い髪。
 そして、この瞳。
「…………そうだ、祐一だ。久しぶりだな、まい」
「ひさしぶり……うん、久しぶり、祐一。会いたかった……」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ……いや、違うだろ、俺。
「つか、なんでちっさいままなんだ、まい」
「あ、本体はあっちで泣いてる」
 どこから突っ込めばいいのやら。
 
 
 
 
 


あとがき

そろそろ書きづらくなってきた……
分岐とか、そういうのが本編ではありますからねぇ
う〜ん、このあとは……どうなるんっしょ?
 
 

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