ぼんやりと、寝起きで頭がはっきりしないまま微睡む。
 引き寄せた時計を見ると、もう起きなければならない時間のようだ。
 俺はごそごそとカバーの欠けた時計を枕元に戻す。
 
 ……カバーの欠けた。
 
 ………
 
 …………秒針、動いてなかったな。
 
 ……………
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
GEDOU
    〜 奥さん、外道ですよ 〜

ツナギノニジュウイチ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 壊れた時計を見たら一気に目が覚めた。
 時刻が分からないと言うのは、かなり不安なことだ。
 しかし、秋子さんも起こそうとしてないところを見ると、まだ時間はあるんだろう。
 ……でも、まぁ、このまま二度寝すると絶対遅刻するだろうし。
 起きるか……
 とりあえず体を起こ――そうとしたが、なぜか、重い。
 体に何か絡み付いたかのように動きづらい。
 首元の布団をあげて中を見ると、コアラよろしく俺の体にがっしりとしがみついたぽちがいた。
「…………真琴」
 無反応。
 むかつくくらい幸せそうな顔をして眠っている。
 抱き付いているぽちを無理矢理引っ剥がし、枕に顔面をばこばこと何度も叩き付けた。
 それでようやく起きたようだ。
「真琴」
「ふが」
「おまえ、なんでまた俺の布団に潜り込んでんだ、ん?」
 ぽちはふがふがとなにか言っているようだが、枕に押しつけているため全く分からない。
 仕方なしに顔を上げ、喋らせる。
「…………なんとなく?」
 
 きゅっ
 
「あぅ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ぽちをチョークで落としてすっきりした俺は、一階へ下りていった。
「おはようございます、祐一さん」
「おはようございます」
「随分早いですね、今日は」
 時計を見ると7時半を指していた。
「…………早いですね」
「朝ご飯食べますか?」
「えぇ、頂きます……ちなみに、パンですか? それともご飯?」
「私、です」
「へぇ」
 思いっきり冷めた目で、汚物でも見るような視線を向ける。
「い、いや……そんな目で見ないで下さい……」
 案の定、というかなんというか。
 顔を青くして、俺の視線から逃れようと台所を右に左にぱたぱたと歩き回っている。
 今にも部屋の隅でがたがた震えだしそうな勢いだ。
 面白いくらいに反応してくれるな、秋子さんは。
「冗談ですよ、冗談」
 そう言うとぴたりと足を止める。
 棚の横からこちらを伺うように顔だけを出し、ホントですか? と小声で呟く。
「ホントですよ」
 安心させるように微笑む。
「あ……」
 今度は頬を染めてもじもじと指を絡ませはじめた。
 そんなのいいからさ、朝食、作ってくんないかな。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「あ、あいたた……」
 名雪は額と胸のあたりを押さえてうめいている。
「素直に起きれば、もっと優しく起こしてやるんだがなぁ……」
 学校へと続く道を歩きながら、しみじみと、呟く。
「ほっ、ほほほほほんとっ?」
 そしてそれに過剰反応するアホ。
「そ、そ、それじゃ……きす、とか……」
 あはっ、と気の抜けた笑い声を出す。
 俺は胸の前で拳をにぎにぎと何度か握る。
「あ、うそうそ、冗談だよ、ゆういち」
「そうか、別にそれでもよかったんだけどな。しなくていいんなら他の方法を考えとくか」
「あ、あ、あ、そんな――」
 まだなにか言いたそうな名雪を無視して学校へと向かう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「まさか……名雪が余裕の登校を……?」
「う〜、香里ぃ〜」
「……なによ?」
 不機嫌そうな顔が一転、にへらっと緩む。
「んふふ〜、香里〜」
「な、なによ……?」
「明日からね、ゆういちがキ――」
 
 ごっ
 
「だ、だおっ」
「おはよ、香里」
「え、えぇ、おはよ、相沢君」
 教室に掛けられている時計を見ると、HRが始まるまで10分ほど余裕がある。
「ちょっと早いな」
「驚異よ、名雪が居るのに……」
 ホントに驚いたように名雪を眺めている香里。
「ふ〜ん」
 今までがよっぽど酷かったんだろうな。
 鞄を机の横に掛け、椅子を引いて座る。
 ……ねむ。
 いつもより早く起きたから、何となく寝不足って感じだ。
 
 1時間目は体育で、マラソン。
 やってらんねぇ、って感じだ。
 2時間目、3時間目は体力回復に努めた。
 そして4時間目も中頃になった頃。
「……おい、相沢」
 後ろの席の北川が小声で話しかけてきた。
「あの子……またいるぞ」
「あの子……?」
 そう言ってから気が付く。
 
 電波。
 ちりちり。
 
 窓の外。
 雪に覆われた地面に、一組の足跡がある。
 その先には、小さな体にストールを羽織った、あの女がいる。
「……やっぱり、ちょっと可哀想な子なのかな、あれ」
 北川がなに気に酷いことを言っている。
 俺はだんまりを決め込む。
 もう、会いたくないし。
 ヘタなことして教室がばれたらあとが大変そうだ。
 と、いうことで、俺は真面目に授業を受けた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 学食が大盛況だったため、昼食は菓子パンを各自買って教室で食べることになった。
 他のやつは買うのに手間取っているらしく、俺は一足先に教室へと向かっていた。
 その途中。
「…………」
 ぼ〜っと窓の外を眺めている女が目についた。
「よぉ」
 俺はその見覚えのある顔に声をかけた。
「よぉ」
 すかさず返す女。
 ……やるな。
 ケープのリボンを見ると、どうやらこいつは3年らしい。
「年上だったんだ、あんた」
 頬を腫らせて泣きながら帰っていった昨日を思い出すと、あまりそうは見えない。
「昨日の、なんだったんだ?」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
 先が続かない。
 俺は女の隣で壁により掛かり、買ってきたパンの包装を破る。
 もさもさと味気ない菓子パンを牛乳で流し込みながら、適当に女に話し掛けた。
 そのたびに素っ気ない返事が返ってくるが、俺としてはこういった女の方が好ましい。
 食べ終わったパンの包装をくしゃっと握り込み、ポケットに入れる。
「じゃ、またな」
「……ん」 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ……しかし。
「黒星6万強かぁ……」
「……………ぐしゅっ」
 無言で号泣しないで欲しい。
 
 
 
 
 


あとがき

半端だなぁ……
佐祐理さんは次回に回します

最近どうもうまく書けてない……
なにか違うの書こうかなぁ、と思ってみたり
 
 

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