特に何かあったわけでもなかったが、あゆあゆをさんざ連れて遊び回った。
 事あるごとにうぐうぐ鳴くあゆあゆは鬱陶しいけど、まぁ、暇潰しが出来たから良しとしよう。
「それじゃおにいちゃん、またねっ」
 少し離れたところからぶんぶんと勢いよく手を振るあゆあゆにつられ、つい俺も振り返してしまう。
「あぁ、またな。寄り道すんなよ、迷子になるからな、あゆあゆは。
 しらないオヤジに『お菓子あげるから』って言われてもついていくなよ」
「うぐっ、ボクそこまで子供じゃないよっ」
 どこが。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
GEDOU
    〜 奥さん、外道ですよ 〜

ツナギノニジュウ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 時は経ち、今は夜。
 これでもか、と言うほどに、夜。
 なぜか俺はひとり学校に忍び込んでいたりする。
 風呂に入ろうと着替えを掴んだところに、名雪が『ノート返して』とのたまったのだ。
 言い方がむかついたので一発殴っておいたが。
 探したけれども見つからない、というか、ノートを持ってきた覚えもなかった。
 そう言ったら、あからさまに非難の目を向けるので、また殴る。
 ……しかし、まぁ。
 こればかりは俺が全面的に悪い上に、分も悪い。
 そんなことであんなやつに借りを作るのも癪なので、こうして夜の校舎で天誅ごっこをしているわけだ。
 ちなみにセキュリティはボタンひとつで解除出来た。
 ……ずさんすぎだ。
 とりあえず俺は教室へと足を向ける。
 ぺたぺたとリノリウムの床を叩く音だけが、廊下に響く。
 時折、宿直の先生らしい懐中電灯の明かりがちらちらと見えた。
 
 特に問題も発生しないまま教室へと着く。
 そっと、ドアを開ける。
 宿直の先生がいなくなったのは確認しているから、音が出ても問題ないが……
 心情的にこういったところでは隠密行動でしょう?
 ……無駄なこと考えてないで入るか。
 だれもいない教室をひとしきり眺め、自分の机に向かう
 そしてごそごそと中を確認する。
 ………………これか。
 ぺらぺらとノートをめくると、整った文字がびっしり描き込まれていた。
 あとは特に用もないので、俺はノートを片手に教室を出る。
 さて、帰るか。
 
 そしてふと、窓の外に目を向ける。
 大きな月。
 使い古された、陳腐な科白だが……月は人を狂わせると言う。
 煌々と夜を照らす蒼白いこの月を見ると、何となく分かるような気もする。
 
 ぱん、ぱん、ぱしっ
 
 どこかで、そんな音が聞こえた。
 
 ぱん、ぱん、ぱしっ
 
 また、聞こえる。
 音が響いてるので確かな発生場所は分からない。
 なんとなく……ひとつ先の角を曲がったところから聞こえるような気もする。
 
 好奇心は猫をも殺す
 
 そんな言葉が掠めるが、好奇心を無くせば人間の進歩はあり得ないわけで。
 俺は再び足音を消し、廊下を歩く。
 
 ぱん、ぱん、ぱしっ
 
 休むことなく音は鳴り続ける。
 その音と重なるように小さくうめく声と、わずかに啜り泣くような、そんな音も聞こえる。
 ……よくある七不思議のひとつとかじゃないよな、これ。
 そんなことを考えている内に曲がり角まで来た。
 恐る恐る向こう側を覗く。
 …………なにか、いた。
 黒く、長い髪を後ろで束ねた女が座り込んで何かをしている。
 その向かい側にも何かいるようだが、隠れていて見えない。
 差し当たっての危険はなさそうなので、足音のついでに気配も殺して近付いてみる。
 近付くにつれ、隠れていたものも見えてきた。
 ……ちいさな、女の子だ。うさ耳を付けた。
 どこか懐かしいその女の子は、一生懸命に手を握ったり開いたりしている。
 ……なにしてんだ?
「ちっけったっ!」
 じゃんけんかよ!
 『ちっ』お互いの手を合わせ、『けっ』でその手を引き、『たっ』で手を出す。
「ちっけったっ、ちっけったっ」
 ぱん、ぱん、とリズムよくじゃんけんは続く。
 と、うさ耳を付けた女の子のほうが勝った。
 ぱしっ、と髪の長い女の頬を平手で打ち、そのままダッシュでどこかへ去っていってしまった。
 あの音は、これが原因ですか……
「……なぁ」
 酷く落ち込んでいうように見える女に声をかける。
 女は弾かれたように振り返り、身構えた。
 その顔には驚きの表情。
「そんなに驚かれてもこっちが困るんだが……」
「……何者」
 何者って言われてもねぇ……
「こっちが聞きたいよ、それは……」
 夜中の学校でじゃんけんしてビンタ食らってるやつなんて初めて見るよ。
「……そう」
 納得されてもねぇ……
 女は叩かれた頬を撫でるようにすりすりとこすっている。
 なんとなく、気まずいような雰囲気だ。
 頬はかすかに赤くなり、気持ち腫れているようにも見えなくもない。
 さっきのやりとりを見る限り、あの女の子はそれほど強く打っているようにも見えなかった。
 と、いうことは、数で勝負されているわけか?
「……何回くらい勝ってるんだ、今のところ」
「…………千とちょっと」
「千!? そんなにかよ……いつからの統計だ?」
「……かれこれ10年」
「はぁっ!?」
 マジでかよ……
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ちなみに負けは6万強」
「よわっ!!」
「…………私は魔物を討つ者なのにっ」
 うっ、と口元をおさえ、泣きダッシュで女も去っていった。
 ある意味、青春。
 
 
 
 
 


あとがき

物書く時のテンションじゃないです、今
だっる〜〜
 
 

SS index / this SS index / next 2002/03/30