カーテンの隙間から差し込む朝日と、強烈な寒さで目が覚める。
「……目覚まし時計いらないかもな」
 まぁ、その目覚まし時計は既に使用不可能だけど。
 布団から出ようと体を起こすと、ぐにょりと何かを掴んだ。
「あぅん……」
「……………」
 とりあえずベランダに捨てておく。
「戸締まりOK」
 がちり、とロックが噛み合う音を立てる。
 さらに寒さを感じる前に素早く着替え、1階へ降りていった。
 
「あ、あぅ!? ささ、寒っ! いたたたっ、足痛いっ! ご、ご主人様!? あぅっ!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
GEDOU
    〜 奥さん、外道ですよ 〜

ツナギノジュウハチ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 授業開始のチャイムが鳴る。
 やはりと言うか、あのアホのおかげで遅刻ギリギリの登校だった。
「大変ね、相沢君」
「分かってくれるか……」
 香里は結構いいやつかもしれない。
「はぁ……でも、名雪が羨ましい……」
 ぽそりと呟く。
「なにか言ったか?」
「……なんでもないわ」
「そうか? あ、先生来たぞ」
 がら、と教室のドアを開けて先生が入ってくる。
「はじめるぞ〜、席に着け〜」
 退屈な授業の始まり。
 
 
 
 
 
 10分と経たないうちに名雪は夢の世界へ。
 俺はただひたすらぼ〜っとしている。
 なにせ授業内容が既に前の学校で終わらせたところだ。
 やらなくても分かるっての。
 そして座っているだけの時間は過ぎていく。
「あ〜、今日はこれで終わりだ。日直」
 日直らしい北川の号令で1時間目は終了した。
 休み時間になるとクラスの中にいくつかのグループができる。
 これはどこの学校でも同じようだ。
 俺の机を中心に集まるグループもそのひとつ。
「相沢君……授業聞いてないでしょ」
「あたりまえだ」
「……なにが、あたりまえだ、だよ……授業はちゃんと受けろって」
 うっさい、北川。
「前の学校でやった所なんだよ」
「あはは……それなら納得ね」
「あ、それはそうと美坂、おまえ今日日直だろ」
「……あ……忘れてた」
「やっぱりな……おかげでもうひとりの日直が大迷惑だぞ」
「後で謝るわ」
「そうしろ」
「それで、今日のもうひとりの日直って誰だっけ?」
「オレ」
 北川がそう言った瞬間、香里の雰囲気ががらりと変わる。
「あ、そう」
「あ、そうって……それだけか」
「めんどくさ……北川君、今日はあなたひとりでお願いね」
「あ? なに言ってんだよ」
「あたしの頼みが聞けないとでも?」
「……わかった」
 北川は背中に哀愁を漂わせながら黒板を消しに行く。
 ……香里は北川が好きではないらしい。
 そんな事をしているうちに休み時間は終わる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「えー、この部分はテストに出るので覚えておくように」
 お決まりのフレーズ。
 と同時にチャイムが鳴り、昼休みとなった。
「ゆういち」
「ん?」
「お昼ご飯どうするの?」
 ……どうするかな……
「名雪はいつもどうしてるんだ?」
「お弁当か、学食」
「今日は?」
「学食でランチセットだよ」
「……じゃ、俺も学食かな」
 席を立ち、香里達に話し掛ける。
「香里と北川はどうするんだ?」
「あたしも付き合うわ」
「オレも学食でいいや」
 香里の舌打ちが聞こえたような気もしないでもない。
「じゃ、行くか」
 ぞろぞろと教室を出て、学食へと向かう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「おいしかったね」
「まぁ、標準的な学食に比べるとうまかったな」
 学食から教室へと続く廊下を歩きながら答える。
 前の学校は大してうまくもなかった。
 かといって不味いわけでもない、微妙な学食だった。
 味のわりには安かったが。
「…………」
「名雪?」
 廊下で立ち止まり、窓の外をじっと見つめている。
「立ち寝か?」
「……目を開けたままは寝ないよ」
 立って寝るところは否定しないのか。
「で、何かあるのか?」
 名雪が見ている方向に視線を向ける。
「外、寒いよね」
「あたりまえだ」
 それは十分体感している。
「あの子、なにしてるんだろ」
 その瞬間、俺の本能が告げた。
『関わるな』
 そして本能に従う。
「怪電波でも受信してるんだろ」
 そう言いながら歩き出す。
「ふ〜ん……でも、別に外じゃなくてもいいよね」
 信じやがった。
「外のほうが電波の状態はいいだろ。校舎はコンクリだからな、電波の入りが悪い」
「そうだね」
 それにしても、すさまじい顔色してるな、あの女。
 白通り越して蒼白だぞ。
 確か名前は栞って言ったか。
 美坂、栞…………?
「あ」
「ん? どうしたの、ゆういち?」
「いや、香里って妹とか弟いたか?」
「……いないと思うよ。聞いたこと無いもん」
 ……気になるな。
 まぁ、ここから聞く分には危険はないよな。
「名雪、先に行ってろ」
「……そう? じゃ、行ってるね」
 ぱたぱたと足音を残して去って行く。
「さて……」
 冷え切った窓を開け電波女に声をかける。
「おい、栞っ」
 ゆらぁり、と幽鬼のように不気味に振り返る。
 
 にや〜
 
 怖……
「なんですか?」
「……おまえ、姉ちゃんいるか」
「いますけど……知ってるんですか?」
「もしかして香里とかいう名前か?」
「そうですけど」
 そうか……
「わかった、じゃあな」
「あ、待って下さいよ」
 10mほどの距離を一気に詰めてくる。
 壁越しとはいえ窓が開いているんだ、簡単に捕まってしまう。
 ということで本能の赴くまま、窓を思いっきり閉める。
 
 ばしぃ
 
 がずっ
 
 ……漫画みたいだな。
 ずる、と顔を窓にこすりながら崩れ落ちていく栞。
「……さ、戻るか」
 きちんロックもかけておく。
「あら、相沢君。まだ戻ってなかったの?」
 タイミングよく香里が通りかかる。
「ん、まぁ……な」
 ……もしかて見られたか?
「早く戻らないと先生来るわよ」
「だな、戻るか」
 どうやら見られてはいなかったようだ。
 香里と列んで歩きながら教室へと向かう。
「なぁ、香里。おまえ妹いるよな」
 何気なく切り出したつもりだが、香里の反応は凄まじいものだった。
 ざぁ、と音が聞こえるかと思う程に顔色が変わり、唇を噛みしめている。
 ……なにか、まずかったか……
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「あたしに……妹なんていないわ」
 分かる。よく分かるぞ、その気持ち……
 あんなのが身内じゃ、そうも言いたくなるよな。
 
 
 
 
 
 


あとがき

う〜ん、う〜ん
 
 

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