名雪と秋子さんをリビングに呼ぶ。
 ぽちがみんなに話があるということらしい。
「で、なにを思い出したんだ?」
「あのね、名前、思い出したの」
 バカみたいにニコニコしながらそう言った。
 まぁ、記憶喪失のやつがはじめに思い出すといえば、名前が無難なところだな。
「それで、名前は?」
「うん、ぽちだった」
 
 どがっ
 
「あうっ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
GEDOU
    〜 奥さん、外道ですよ 〜

ツナギノジュウナナ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「なぁ、こんな時間にひと集めといて、それか?」
 右手をわしわしとさせながらぽちの顔に近づける。
「あぅっ、ち、ちがうっ。ぽちは初めの名前っ、もう一つのは真琴、沢渡真琴っ」
 ぶんぶんと頭を振りながら後退りするぽち――いや、真琴か?
 ……どっちでもいいや。
「真琴ね。じゃあ、その名前で呼ばせてもらうわ」
「ぽちっていうのも妙な征服感があってよかったけど、よろしくね、真琴」
 真琴ねぇ……耳にいやな響きだな。
「思い出したのはそれだけか?」
「あぅ…………名前だけ」
「そんなに急いで思い出すこともありませんよ、真琴」
 秋子さんがぽちの頭を撫でながら、優しく話しかける。
「思い出すに越したことはないですがね」
 俺はそう言いながら立ち上がる。
「風呂入ってきます」
「あぅ、真琴も……」
「お前も? ……なら俺が後でいい」
「……一緒に入る」
「あ、なら私も」
 
 ごっ
 
「あぅっ」
「だ、だおっ」
 同時にしばき倒しておく。
「わた――」
「秋子さん?」
「……なんでもありません」
 はぁ……
「お湯張ってきます……」
 俺は風呂場へと向かっていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ふぅ……」
 お湯にどっぷりと浸かりながら息を吐く。
 やっぱり寒い夜には風呂が一番だろ……
 酒という手もあるけど一度始めると止まらなくなるからな、やめよう。
「……しかし」
 ぽちの名前が真琴とは、まったくの偶然か。
 ネジの一本どころか、精神のフレーム丸ごとぶっ飛んだかのようなあのひとと同姓同名……
「イヤな偶然もあるな」
 ばしゃ、とお湯をすくって顔を濡らす。
 良い方に考えよう。
 ここにいる真琴があっちの真琴でなくてよかった。
「……こっちの真琴も良いとは言えん」
 どこかぶっ飛んでるのは一緒だな……
 風呂から上がると、湯冷めしないうちにさっさと部屋に戻り布団に潜り込んだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「…………」
 うとうとと睡魔にのまれていたはずだが、いつの間にか薄暗い天井を見上げていた。
 ……最近、寒くて夜中に目を覚ますことが多い。
 ごろんと寝返り打ち、布団にくるまり目を閉じる。
 
 ギ……ギ……
 
「…………ん?」
 
 ギ……ギ……
 
 廊下の軋む音。
 こんな真夜中に忍び足で廊下を歩くやつがいるか?
 アホは爆睡中。
 秋子さんは忍び足なんかしないだろう、夜這いするならともかくとして。
 まぁ、考えるまでもなくあいつなんだけどな……
 
 ガチャ……
 
 俺の部屋のドアノブが回される。
 きぃ、と軽い音と共に影がするりと室内に滑り込んでくる。
「あはは……ご主人様、寝てる……」
 含み笑いを漏らし、忍び足で布団に近づく。
 ごそごそとなにかをしたかと思うと、おもむろに布団の中に潜り込んできた。
「寒いわ!!」
 
 どずっ
 
「あぅっ!?」
 思いっきり蹴り出してやった。
 2回3回と転がり、壁にぶつかってようやく止まる。
「…………あぅ」
 ごと、となにか力尽きたような音がしたが、気にしないことにする。
 ……なんかスッキリした。
 逃げてしまった暖かい空気を再び取り戻すべく、俺は布団を頭から被る。
 あのバカ、寒いっつ〜んだよ……
 微睡みに身を任せていると、意識が沈むように眠りに落ちていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「っくしゅ……さ、さっむっ…………あはは、ご主人様暖かそ……」
 
 ごそごそ
 
「寒いんじゃ!!」
「あぅっ!?」
 
 
 
 
 
 

 
あとがき

今回もまた短いです
次は……学校のようで
……なんか久しぶりのような?
 
 

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