ふと時計に目をやると、ちょうど12時を指していた。
 本にしおりを挟み、枕元に置く。
「そろそろ、昼飯かな……」
 俺は足元で頬を染めてあぅあぅと悶えている女の襟首を掴んで1階へと降りて行った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
GEDOU
    〜 奥さん、外道ですよ 〜

ツナギノジュウゴ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 食卓には既に名雪も来ていて、昼食の準備も終わろうとしていた。
「あ、祐一さん。ちょうど今できたところですよ」
 秋子さんの機嫌も直ったようだ。
「そうですか」
 糸目のアホに一発入れてから、ずるずると引っ張ってきた女をその向かいに座らせる。
「おい、いい加減に起きろ」
「…………あぅ?」
「起きたな」
 そして俺も席に着く。
「では、いただきます、秋子さん」
「いただきま〜す」
「……あぅ……いただきます」
「はい召し上がれ」
 俺は箸を持ち、味噌汁の味を確かめる。
 と、女が椅子をガタガタと移動させ、俺の隣に来た。
「…………」
「あぅ〜〜〜」
 幸せそうな顔でご飯にかける生卵をかき混ぜている。
 ……はぁ……
 なんでこんなに懐かれてんだ……
「祐一さん」
「ん? あぁ、そうですね」
 俺は今後のことを話そうと女に話しかける。
「なぁ」
「あぅ? なに?」
「おまえ、名前は何て言うんだ?」
「…………あぅ……わかんない……」
 やっぱりか……
 なんとなくそんな予感はしてたけどな……
「記憶喪失なの?」
「…………たぶん」
「ま、順当なところで警察に保護を求めるんだが――」
「あ、あぅっ!?」
「……おまえ、この家は好きか?」
「…………うん、すき」
 ぽんぽんと女の頭を叩き、安心させるように言う。
「なら、しばらくここにいてもいいぞ」
 ヘタな事すれば鉄拳制裁だけどな。
「あぅ〜〜〜、ごキィっ
 ヘタなことを言う前にも鉄拳制裁な。
「さて、おまえはしばらくはここにいるんだ。名前くらい知っておかないとな」
「それだけでも思い出せればいいんですけどね……」
「ねぇ、なにか思い出せない?」
「…………あぅ」
 女は首を横に振る。
「でもなぁ……名前が分からんと、色々不便なんだよな……」
「思い出せるまでなにか替わりの名前があったほうがいいかもしれませんね」
「あ、それじゃ、わたしがつけてあげる。『花子』」
「ぜっっっっっっっっったいっ、いやっ」
 俺も太郎とはつけられたくないぞ。
「…………そんなに力一杯否定しなくても……」
「それなら『アンシャーリー』は?」
「こいつはどう見ても日本人です」
「…………ぐす」
 また拗ねるし。
「はぁ……みんなセンス無いぞ……俺がつけてやるよ」
「ゆういちはセンスあるの?」
 失礼な。
「どういう名前ですか?」
「素晴らしいの一言だな。『ぽち』」
 
 
「…………」
 
 
「…………」
 
 
「…………」
 
 
 奇妙な沈黙が続く。
「……ぽちかぁ…………あは…………いい名前だよね」
「あ、あのね……『ぽち』ってなににつけられる名前かわかってる?」
 名雪が慌てたように言う。
「え? 犬とかでしょ?」
 分かってるんだな、ちゃんと。
 つまりそれは『わたしはあなた様の犬です。ぽちと呼んでください』と言うことか?
「ま、まぁ……本人がよければいいでしょうし……」
「いい名前だよな、ぽち?」
「うんっ」
「……いいかなぁ……?」
 最高だろ?
 もう、バカばっかりで。
「ぽち」
「あぅ?」
 素直に振り向くぽち。
 可愛いっちゃ可愛いが。
 こいつもアホだが、俺も大概にバカだな。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ぽち」
「あぅ?」
 もう、ホントにバカばっか。
 
 
 
 
 
 

 
あとがき

はい、短いですね
おまけにぽちです
あ、石は投げないで
いろいろ痛いし
……イタいのは私の思考回路という説もありますが
 
次は……秋子さんと買い物のようです
 
 

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