身震いと共に目が覚める。
 体を起こし時計を確認すると、時刻は午前1時。
「……寒いと眠りが浅くなるのかね……」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
GEDOU
    〜 奥さん、外道ですよ 〜

ツナギノジュウサン
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「……してこよ」
 俺はベッドから這い出す。
 夜中に起きるともれなく付いてくる、尿意という奴だ。
 ドアを開け廊下に出ると、寒さが増したようにも感じられる。
 ……さっさと済ませよ……
 1階へ下り、慣れない暗闇の中を歩く。
「…………?」
 と、どこかで物音がしたような気がした。
 
 ごそごそ
 
「……なんだ?」
 今度は、はっきりと聞こえる。
 かなり大きな音だ。
 俺はなにが起きているのか確かめようと、リビングから回り込み、台所の入り口へと立つ。
「あぅ……」
 ……この声、この口調……
「お腹空いたよぉ…………なんか無いかな……」
 あの女が冷蔵庫を漁っていた。
 家の主に無断で冷蔵庫を漁るとは、なかなかの根性をしている。
 ここは秋子さんに代わって天誅か?
 壁際に据え付けてあるスイッチを入れた。
 暗闇に覆われていた台所は蛍光灯に照らされ、一気に明るくなる。
「……………………」
 そして女は冷蔵庫の前で固まった。
 俺はぺたぺたと足音を鳴らしながら、ゆっくりと女に近づく。
「……なぁ」
「あ、あぅっ」
 女はびくりと体を震わせ、勢いよく振り返る。
 そしてそれまで強張っていた顔が、俺を見たとたん嬉しそうに歪む。
「あぅ〜〜、ご主人様ぁ〜〜」
 
 どすっ
 
「…………あぅ」
「……なにを、していたんだ? ん?」
 がし、と女の顔面を掴む。
 通称『アイアンクロー』
「あぅっ」
 キリキリと力を入れる。
「あぅっ、あぅっ、あぅっ」
 
 ギリギリ
 
「あぅっ、あぅっ、ご、ご主人様ぁ〜〜」
 更に力を込める。
「あぅっ、あぅっ」
 
 みし
 
「あぅっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「これに懲りたら、泥棒紛いの家捜しはしないことだな」
「あぅ……頭がいたいよぉ、ご主人様ぁ……」
「ん? どこが、なんだって?」
 微笑み。
「…………あは…………あ、なんでもないよ」
「そうか?」
 
 く〜〜〜〜〜〜
 
「…………あぅ」
 ……そういや、冷蔵庫漁ってたし、腹減ってんのか。
「あぅ……」
 床に座り込んだまま上目遣いでこちらを窺う女。
 ……くっ
 なんか親とはぐれた小動物みたいで放っておけないぞ……
 俺が目を逸らすと女は泣きそうな表情になり、あからさまなまでに肩を落とす。
 それこそ、主人に捨てられた愛玩動物といった感じに。
 ……ざ、罪悪感が……
「…………わかったよ、腹減ったんだろ。なんか作ってやるよ……」
「あぅっ、ほんとっ?」
 先程までの暗い雰囲気はどこへ行ったのか。
 犬だったら尻尾ふってそうな程に喜んでいる。
「ホントだよ、そこに座って待っとけ」
「うんっ」
 俺は食パンを4枚まな板の上に置き、耳の部分を切り落とす。
「なに作るの?」
「サンドウィッチ」
 冷蔵庫から取り出したサンドウィッチに使えそうな野菜、生ハム、チーズ、ツナなどを適当に組み合わせる。
 出来上がった物に十字にナイフを入れて、四角いサンドウィッチが8個完成。
 皿に並べてテーブルの真ん中に置き、女の前の椅子に座る。
「出来たぞ。食ってみろ」
「あぅ……おいしそ……」
 それでまずいとか言ったらぶっ飛ばすけどな。
 俺はレタスと生ハムのサンドをつまみ、口に運ぶ。
「……自分で作っといてなんだけど、うまいな……」
 レタスは噛む度にシャキシャキと音を立て、生ハムは香りもよく、うまい。
 ……秋子さんが買ってきたやつなんだろうな。
 ハムは自家製って可能性はあるが。
「…………」
「どうした?」
「……おいしい」
 そりゃそうだろ。
 女は次々とサンドウィッチを胃に収める。
「何か飲むか?」
「……牛乳」
「はいはい」
 俺は冷蔵庫から牛乳パックを出し、コップに注いで女に差し出す。
「ありがと……」
 こくこくと半分程を飲み、最後のサンドウィッチを口に運ぶ。
 その瞬間女の全てがビシリと凍りついた。
「……………………あぅ」
「う〜ん、最後に食ったか。運いいな、おまえ」
「ご主人様ぁ……なにこれぇ……」
 口の中にはなんとも言えない味わいが広がっているんだろう。
 顔を歪め、コップに手を伸ばそうとするが、途中で力つきテーブルに突っ伏す。
「……気を失う程まずいか」
 まぁ、あれを予告無しで食ったら意識も飛ぶか。
 純粋に『まずい』からな、あれは。
 この間秋子さんが作っていたのをこっそりつまみ食いしたら、意識飛びそうだったし。
「さて、こいつも静かになったことだし、寝るか」
 皿とコップを流し台に置き、俺は台所を後にする。
 
 
 
 
 
  

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 部屋に入ろうとすると、隣からまたぶつぶつと聞こえてきた。
「け、けろぴー? ……ちがう、これ、けろぴーじゃないお〜、8頭身のけろぴーはけろぴーじゃないお〜」
 ……どんな夢だよ。
 
 
 
 
 
 
 

 
あとがき
 
今回の祐一は微妙に優しいです……
祐一は人には厳しいですがペットには優しいということで
……だめ?
 
 

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