雪が降っていた。　
　いかにも　
　
　冬ですっ　
　
　と、自己主張している空から、真っ白な雪が舞い降りていた。　
「…………」　
　俺はベンチに深く沈めた体を起こして、もう一度居住まいを正した。　
　既に時刻は３時。　
　まだまだ昼間だが、灰色の雲に覆われてその向こうの太陽は見えない。　
「……遅ぇ」　
　再び椅子にもたれかかるように空を見上げて、一言だけ言葉を吐き出す。　
　その視界を、ゆっくりと何かが遮る。　
「…………」　
　雪雲を覆うように、女が俺の顔を覗き込んでいた。　
「雪、積もってるよ」　
　ぽつり、と呟くように白い息を吐き出す。　
　とりあえず、一発殴っておく。　
「だ、だおっ」　
　妙な鳴き声をあげた。　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
GEDOU
　　　　〜　奥さん、外道ですよ　〜　

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ツナギノイチ　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
「そりゃ、２時間も待ってるからな……」　
　雪どころか怒りも積もる。　
「……あれ？」　
　俺の言葉に、倒れこんだままの女が不思議そうに小首を傾げる。　
「今、何時？」　
「３時」　
「わ……びっくり」　
　間延びした、アホっぽい声。　
「まだ、２時くらいだと思ってたよ」　
　
　ごっ　
　
「だ、だおっ」　
「……ごめん、寒くて手がかじかんで、すべった……」　
「そ、そう……ごめんね、待たせて」　
「いや、いいんだ……来てくれただけで嬉しいよ……」　
「ゆ……ゆういち〜〜」　
　
　ひょい　
　
　べちゃ　
　
「…………」　
「あぁ、すまん。思わずな」　
　倒れたまま顔だけをこちらに向ける。　
「ひとつだけ、訊いていい？」　
「……ああ」　
「寒くない？」　
　
　どす　
　
「寒い」　
　蹴った。　
「……いま、足蹴にしなかった……？」　
「気のせいだろ。寒くてそれどころじゃない」　
「……じゃ、これあげる」　
　不思議そうな顔でそう言って、缶コーヒーを１本差し出す。　
「わたしの名前、まだ覚えてる？」　
「そう言うお前だって、俺の名前覚えてるか？」　
「うん」　
　
　雪の中で……　
　
　雪に彩られた街の中で……　
　
「ゆういち」　
「徐倫」　
「違うよ〜」　
「ビショップ」　
「わたし、人間……」　
　アホみたいに眉をひそめる。　
「いい加減、ここに居るのも限界かもしれない」　
「わたしの名前……」　
「そろそろ行こうか」　
「名前……」　
　
　７年ぶりの街で。　
　
　７年ぶりの雪に囲まれて。　
　
「行くぞ、名雪」　
　
　新しい生活が、冬の風にさらされて、ゆっくりと流れていく。　
　
「うんっ……あ……あれ？　た、立てないよ……ゆういちぃ……」　
「大丈夫か？　どうしたんだ？」　
　わざとらしく心配してみる。　
　思いっきり顎先に一撃入れてやったからな。　
　足にきたんだろう。　
「え……ゆういちが……」　
「……俺が？　俺がなにかしたのか？」　
　極上の笑みを浮かべる。　
「…………」　
「どうしたんだ？」　
「う、ううんっ、なんでもないよっ」　
「そうか……ひとりで歩けそうか？」　
「……無理……」　
　それもそうだろう。　
　あれでいままで何人の人間が俺に平伏したか。　
「そうか……それじゃ、これに地図書いてくれ。おぶっていってやるよ」　
「ほほほほんとにっ？」　
「……あぁ」　
「うぅ〜ゆういちのせなか〜」　
　こいつ……やばいんじゃないか……？　
　紙とペンを渡すとすさまじい勢いで書き始める。　
「おんぶっ、おんぶっ」　
「…………」　
　……やっぱり、こいつ……　
「はいっ、できたよ〜」　
　俺は地図をひったくるように取ると、名雪の体を蹴ってひっくり返す。　
「だ、だおっ」　
　そして地面についた手を靴で踏む。　
「あ、あれ……？　ゆういち……足……手が」　
「ん？　どうしたんだ？」　
「う、うん。踏んで……」　
　俺は手を踏みつけたまましゃがみ、名雪の視線に合わせる。　
「名雪……」　
　そう言いながら優しく髪を、頬を撫でる。　
「うにゅぅ……ゆういちぃ……」　
「俺を待たせた罰だ。暫くそうしてろ」　
　優しい微笑み。　
　そしてまた転がす。　
「だ、だおっ」　
　
　ごろごろ　
　
「じゃぁな。今日中には帰ってこいよ」　
　俺は名雪に背を向けて歩き出す。　
「ゆ〜いち〜」　
　後ろから聞こえる声に手を振って答えた。　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　この雪の降る街で、新しい生活が始まる　
　新しい家で　
　新しい学校で　
　そして一緒に住む秋子さん　
　それと――　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
「ゆういちぃ……もっと苛めてぇ……」　
　アホな名雪と共に――　
　
　
　
　
　
　
　

　
あとがき　
　
場繋ぎアホ連載開始　
タイトル、急に変わる可能性大　
「月花」収集つかないくらい暴走の為、三十分で仕上げました……　
本編にそった形のは書きやすい〜　
でも、不定期更新ですね、これは……　
他のが思うようにはかどらなかったときに出てきます　
多分　
批評お待ちしております