躑躅(つつじ)咲き乱れし春の日

2002/04/07 Written by Ahriman

 

 

 

「うらぁ!」

 草原のど真ん中に男の声。見れば、男は数十匹のモンスターのモンスターに囲まれていた。

 この男は誤ってモンスターのテリトリーにでも入ってしまったのであろうか? 

 否。

 男は自らモンスターの群れに突入していったのだ。

 モンスター達の中心にいる今回の賞金首――アース・キマイラ――を討つために――――。

 

………

……

 

 ザシュッ!

「ギャオオオオオオ!」

 男によって一匹、また一匹とモンスターが地に崩れていく。

 数分後、50匹近くいたモンスターの大群は一匹残らず、屍と化していた。

「さて、残るはテメェだけだ……」

「グルルルルル……」

 ただ一匹生き残った…いや、生き残させられたモンスターであるアース・キマイラが、仲間を皆殺しにされて怒りを覚えたのであろうか…男を猛獣特有の目で睨みつけ、喉の奥で唸り声を上げた。

「フン……俺が憎いか? だったらテメェのその爪で切り裂いてみろよ! それともなにか? その爪は単なる飾りかぁ?」

「グルルルル……ガァ!」

 その言葉を自分への挑発と受け取ったアース・キマイラが咆哮を上げ、猛然と男に襲い掛かる。

「フン! 遅ぇ!」

 アース・キマイラの爪を軽く避け、お返しとばかりに斬りつける。

「グォオオオオオ!」

 片目を潰され、堪らず苦悶の鳴き声を上げるアースキマイラ。

 男が斬りつけた場所は、キマイラ系モンスターの特徴でもある複数ある頭のうちの羊の部分であった。

「痛ぇか? 自分の体傷つけられてんだ、痛ぇに決まってるよな!? でもな……」

 男の声のトーンが一段といわず二段くらい下がった。

「アイツが……メリルが受けた傷はもっと痛かったんだよ! テメェラ…モンスターのせいでな!」

 シュッ! ガシュッ!

「ギャァアアアアアア!」

 男の剣がアース・キマイラを両断した! 下半身を失ったアース・キマイラは当然地に立っていることなど出来ず、断末魔の鳴き声を上げながら地に崩れた。

「フン、この程度か……」

 そう呟き、アース・キマイラを倒した証拠となるものをその骸から斬り離す。

 証拠が無いと賞金首を倒したことにならないからである。

「まだだ……まだ足りねぇ。こんなもんじゃアイツの悲しみは癒されねぇ!」

 男の目から一滴の涙が零れた。

 それは晴れることの無い悔しさからだろうか? それとも…癒されることの無い悲しみからであろうか?

 

………

……

 

 此処はハンターズ・ギルド…腕自慢の賞金稼ぎ達が集う場所である。

「あぃよ、賞金の5000ラピスだ。

しかし、アンタ凄いねぇ! あのアース・キマイラを倒しちまうなんてさ! この前はコカトリスだろ? あんな凶悪なモンスターに挑戦しようなんていう命知らずはアンタくらいなものだったからな」

 しかし、そんなギルドマスターの言葉を無視するように男は賞金を受け取ると、足早にギルドの出口に向かう。

 そして、ギルドから去る前に一言呟いた。

「俺の目標はあんな雑魚共じゃねぇ…ゲノム・ミノタウロス只一匹だ!」

 突然大声を張り上げた男をギルドマスターを初めとする賞金稼ぎ達が驚いてそちらを見るが、そこには既に男はいなかった。

 

………

……

 

 5000ラピスあればこの国では5ヶ月は飲み食いに困らないとある店の店主は言った。

 それも当たり前、この国でもっとも給料の高い王宮兵士でも給料は月2000ラピス程度なのだから。

 

 そして、男が呟いた言葉の中に聞こえたゲノム・ミノタウロス――――。

 このモンスターは、ミノタウロス達の指揮官であった。只突撃するだけしか能が無いミノタウロス達とは違い、知能があり、魔法も使う。

 男はここ3年、このゲノム・ミノタウロスを探して、いろいろな遺跡を旅していた。

 但し、日帰り出来る範囲で、だが。

 成果はゼロ……ゲノム・ミノタウロスどころかミノタウロスすら見かけなかったのだ。

 そこで、ハンターズ・ギルドに入り、賞金首を倒しながら、ゲノム・ミノタウロスの情報を待つことにしたのだ。

 勿論、ゲノム・ミノタウロスも賞金首の中に含まれている。その金額は実に20000ラピス! 先程受け取ったアース・キマイラの賞金の4倍である。

 今まで数多くの強者がこの莫大な賞金を手にしようと挑戦してきたが、ゲノム・ミノタウロスを探しにいった者は皆、帰ってくることは無かった。

 殺されたのか、はたまた…連れ去られたのか……。

 いずれにせよ、帰ってくる者が皆無のため、情報も殆ど無い。

 それでも男は待ちつづけている…何故なら、ゲノム・ミノタウロスは男の大切な人の全てを奪ったのだから――――。

 

………

……

 

 城下町の外れにある1軒のレンガ造りの家、男はドアを開け、ゆっくりと中に入っていく。

「ただいま」

 男の足音に気がついた中にいた女性が、それまで読んでいた本をテーブルの上に置いて、男を出迎えた。

(おかえりなさい)

 女性は、唇を動かして男に話し掛けるとニッコリと微笑んだ。

「おぅ、ただいまメリル! 今日は誰か来たか?」

 男がニッと白い歯を見せ、目の前に居る女性――メリル――に話し掛ける。

(ううん)

 メリルは男の問いを否定するようにふるふると首を横に振った。

「そうか…それじゃ俺はちょっと寝るから3時になったら起こしてくれよな」

(おやすみなさい♪)

「おやすみ! メリル」

 男とメリルは顔を見合わせると、同時に笑った。

 しばらく笑いあった後、男は自分の寝室へと消えていった…その後姿を静かに見送ってから、メリルは椅子に座り、再び本を読み始めた。

(賞金稼ぎなんてしなくてもいいのに……)

 唇を動かしただけの胸の内の呟きは、メリル以外の他の誰にも聞かれることは無かった……。

 

………

……

 

 机と椅子とベッド…その他に目に見える家具と言ったら、服を掛けるためのクローゼットだけ……男の部屋は戦士らしく簡素であった。

 剣、鎧、兜、篭手……全て外し終わった男は、無造作に椅子を引き寄せて座り、机の上に地図を広げて何かを書き始める。

「クルス暦1504年5月14日…アース・キマイラ討伐成功と……ふぅ」

 西部草原地帯と書かれた場所に『Crs1504/05/14 Earth Chimera Dead!』と羽ペンで書き込んだ男は、戦いの疲れが今ごろ出てきたのであろうか…ため息を1つつく。

 良く見れば、地図には色々な場所に文字が書かれている…北部岩石地帯には『Crs1504/04/12 Cockatrice Dead!』と、南部海岸地帯には『Crs1503/08/09 Ex Wyvern Dead!』と、そして、東部湿原地帯には『Crs1503/04/07 Bone Hydra Dead!』と。

 これらは皆、男が今までに倒してきた賞金首であった。コカトリス、エクス・ワイヴァーン、ボーン・ヒドラ、そして…今日倒したアース・キマイラ……これらの賞金首に共通することは、どのモンスターも石化、毒等の状態変化特殊能力を所持しているということである。

 どんなに腕が立つ荒くれの賞金稼ぎでも、状態変化特殊能力を持つモンスターと戦うことを進んで行う者はいない。毒ならまだしも、もし…石化ブレスを浴びてしまったらそれで最後、仲間がいるのならばキュア・ストーン(石化解除)の魔法なり、融解薬(石化解除の薬)を使ってもらえば良いが、もし1人だった場合は最悪、そのまま砕かれて『はい、貴方の人生此処で終り』ということになりかねないからだ。

 しかし、この男は他の賞金稼ぎ達とは違い、他の者が討伐を嫌がる賞金首ばかりを狙って日帰りの旅に出ていた。

 何故、他の者が嫌がる討伐を進んで行っていたのか? 理由は…『強い敵を討伐していけば、いつかはゲノム・ミノタウロスに辿り着くだろう』それ1つであった……。

 

「少し寝るか……」

 羽ペンを元の位置に戻した男は机から離れ、ベッドに辿り着くとそのまま倒れこむように突っ伏す。

「……Zzz」

 1分も経たないうちにベッドからは寝息が聞こえてきた。

 やはり戦いの疲れが今出たのか…ベッドに突っ伏してからすぐに寝てしまったのだ。

 男は眠りの中で夢としてあの日の事を見ることになる。

 あの忌まわしい日の事を――――。

 

………

……

 

 時は3年前の冬まで遡る。

 この時、男は18歳で夏に結婚したばかりであった。

 その結婚相手の名前をメリル、メリル=レイアードといった。

 2人は周りのどの人から見ても、本当に幸そうな夫婦であった。

 そして、あの冬の日……幸せは脆くも崩れ去っていった。

 

『クルス暦内最低最悪の王都襲撃』

 その日は、のちにこう呼ばれるようになった……。

 

『どうした人間。かかってこんのか?』

「くっ!」

 王都襲撃の日、男の前には一匹のモンスターが嫌な笑いを浮かべながら立ちはだかっていた。

 このモンスターこそが、男の全てを奪ったゲノム・ミノタウロスであった。

 普段通りであれば、すぐにでも突撃していく男であったが、今日はそれを出来ずにいた。

 無理もない…最愛の人を、メリルを人質に取られていたのだ。

「ライル! 私のことはいいから!」

「馬鹿っ! そんなこと出来るわけないだろう!」

 妻を見殺しにして、目の前の敵を倒す……そんなことを妻の夫である男――ライル=フォーレス――に出来るはずが無かった。

『ふむ、ならばこうしようではないか。

俺が勝ったら、彼女のある部分を使えなくする。

お前が勝ったら、我々はこのまま去ろう。

どうだ? 不平等ではあるまい?』

「……」

 ゲノム・ミノタウロスの出した提案はライルを大いに迷わせた。

 勝てば、これ以上は何もしないでこのまま去るという。

 しかし、負ければ最愛の妻のある部分は使えなくなってしまう……。

 そのことが、ライルの決断を鈍らせていた。

『嫌ならば、今すぐにこの女の首を捻るぞ』

「! やってやる!」

「ライルっ!」

「大丈夫だメリル! 俺は負けない!」

『決まったな。

どこからでもかかってくるがいい! グォォォォォ!』

 一つ大きく咆哮を上げ、愛用のグレイト・アックスを構えるゲノム・ミノタウロス。

「行くぞ!」

 

 ガキン!

 剣と大型斧のぶつかりあう音が辺りに響き渡った……。

 

 そこで夢は急速に現実へ加速していく……。

 

………

……

 

「はっ!?」

 ガバァ!

 いつのまにか仰向けで寝ていたライルは布団を蹴っ飛ばす勢いで起き上がった。

「ゆ、夢か……ん? メリル?」

 ベッドの傍らにライルの妻メリルが座っていた。手に魔導式時間表示装置を持っている。

(もう3時ですよ)

 唇を動かして3時であることを伝えるメリル。

 メリルの手にある魔導式時間表示装置を見ると、確かに装置の短針は3時を指していた。

 

………

……

 

 ゲノム・ミノタウロスとライルの対決は、結果から言えばライルの敗北に終わった。

 ダメージを負ったように見せかけたゲノム・ミノタウロスが、とどめとばかり剣を振り下ろすライルに向かって麻痺の粉をぶつけてきたのだ。

 まともに麻痺の粉を被り、身動き1つ取れなくなったライル。

 そんなライルを尻目に、ゲノム・ミノタウロスはメリルを肩に担いで仲間達をつれて悠然と去っていく。

 約束が違うじゃないか!

 そう叫ぼうとしても、麻痺で声が出ない。

 ライルを一瞥し、ゲノム・ミノタウロスは掃き捨てるように言った。

「ふん、モンスターが人間なんかに本当のこと言うと思ったのか? この甘ちゃんが!」

 その言葉に打ちひしがれるライル。

 俺は馬鹿だ! モンスターが本当のこと言うわけないのに……。

 

 その後、駆けつけた仲間に麻痺を直してもらったライルは、急いでメリルを探した。

 そして、メリルを見つけた時の事をライルは一生忘れることが出来ないであろう……。

 汚らわしいモンスター達の醜悪な体液を浴びせられて、呆然としていたメリルの姿を……。

 この時ライルは誓ったのだ。

 モンスター共を根絶やしにしてやる! そして、俺の全てを奪ったあのゲノム・ミノタウロスを八つ裂きにしてやる!

 と……。

 その翌日、ライルはそれまで勤めていた王宮兵士を辞め、何時死ぬかも知れない賞金稼ぎの道に入っていったのであった……。

 

………

……

 

「この地方にこんな場所があったんて知らなかった……」

(ね、綺麗でしょ♪)

 呆然としているライルにメリルが微笑みかけた。

 あのあと、夕飯まで時間が随分とあったので、ライルはメリルと一緒に散歩に来ていた。

 なんでもメリルは行きたいところがあったらしく、2人はまずそこに向かったのだ。

 

 そこは、なんと言えばいいのだろうか? 無数の躑躅(つつじ)の花が踊っているとでも言えばいいのか。

 とにかく大量の躑躅が咲き乱れていた。

 

 一輪の躑躅が、風に飛ばされてメリルの胸元のポケットに入り込む。

 この時起きたのは神様の気まぐれか、奇跡か……いずれにせよ常識では考えられないことであった。

「綺麗……」

「え? メリルお前、声が!」

「えっ? 私喋ってる……」

 ライルはメリルの声がこんなにも早く再び聞けるようになるとは思ってもいなかった。

 こうして、メリルは再び喋れるようになったのだ。

 

………

……

 

 大樹の下、2人の唇が重なり合う。

 躑躅の花は、2人を祝福を祝うように何時までも咲き乱れていた。

 

………

……

 

 Two persons were blessed from the ground to the flower on that day.

 What interrupts two persons does not already have anything.

 Two persons will live in happiness after this.

 Azalea blooms disorder is carried out and a spring day will continue watching two persons forever.

 It is...forever.

 

 

 

若き2人の明るい未来に大地と花の祝福を!

 

 

 

 Happy End

 

 

 

†††††††††††††††††††† 後 書 き ††††††††††††††††††††

 

ども、Ahrimanです。オリジSS『躑躅(つつじ)咲き乱れし春の日』はいかがだったでしょうか?

舞凪「アシスタントの舞凪です。このSSは戦闘がメインじゃないんですね」

うん、書きたかったのは戦闘じゃないから、戦闘シーンはかなり短めだよ。

?「けれど、少々話の進め方が強引じゃないですか? 繋がりがおかしいところとかもありますし」

ん? 誰だ?

舞凪「あれ水? どうしてここに?」

水「久しぶりですね舞凪姉さん。今日からはわたしもアシスタントとして参加します」

舞凪「そうなんだ。これから楽しくなるね」

なんか、凄く嫌そうなのは私だけか?(^^;

水「なんか言いました?」

イイエ、ナニモイッテマセンヨ。

舞凪「あはは(^^;」

まぁ、話を元に戻そう。書きたかったのは純粋にライルとメリルの事だから戦闘シーンは少なめです。かなり強引に書いたことも分かってますm(_ _)m

水「まぁ、あなたのレベルではまだまだってことですね」

舞凪「精進あるのみですよ」

あと、最後の英文ですが、文法に全く自信がありません(^^;

舞凪「まぁ、滅多に使わない英語ですからね」

水「恐らく、文法チェックしたら大量に間違いが出てくるでしょうね」

うう、後にきちんと調べますのでとりあえずこれで勘弁ということで。

水「ということで、感想、指摘、意見等ありましたらメールでお願いします。Ahrimanさんが首を360度回して喜ぶそうです」

死ぬわっ!

舞凪「出来たら人間じゃないですね(^^;」

3人「それではまた次回のSSで会いましょう〜☆」

 

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醜悪な〜……マジですか?
ぐぁ……メリル……
が私の最初の感想です
いや、きついです、私には

これはAhrimanさんのサイトの30000HIT突破記念で頂きました
どもです〜

Ahrimanさんのサイトはlinkにありますので、そちらからどうぞ


オリジナル書くのも面白そうですね……

gift index 2002/04/09