部屋でまっていると、ドアがノックされた。 
「秋子さんですか?」 
 名雪との話は終わったんだろうか、と思いつつ、わたしは問い返す。 
 でも、返ってきた声は―― 
 
「祐一、わたしだよ」 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
月に叢雲、花に風 [if…] 
     〜あなたに贈る変調曲〜 

後編
written by Torisugari no Hotta
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「名雪!?」 
 思わず、聞き返してしまった。 
「そうだよ……入っていいかな?」 
「あ、ああ……」 
 わたしが返事をすると、名雪は自分でドアを開けて、部屋の中に入ってきた。 
「わ……」 
 わたしの姿を見るなり、名雪が驚いたような顔をした。 
 ? わたし、そんなに変な格好しているかな? 
「美人さんだよ……」 
「なななっ」 
 名雪のすっとぼけた発言に、思わず腕で胸元を隠すような体勢をとってしまうわたし。 
「なに言ってんだよっ」 
「だって、本当だよ〜」 
 っていうか、さっきまで拒絶してた相手にいきなりボケかますか? 
 ううっ、いきなり奇襲攻撃で、ペースが乱された感じ…… 
「あの、あのね、祐璃さん」 
「なに?」 
 名雪が話しかけてきたので、軽くため息をついてから、気を取り直して、わたしは聞き返す。 
「あの……ごめんね……」 
「名雪」 
「わたし……なにも知らなくて……」 
 名雪は、申し訳なさそうに、かるく俯いている。 
 それを見て、わたしは、とてもいたたまれなくなる。 
「いや……わたしの方こそ……こんなこと、隠しておいてごめん」 
 本当は、悪いのはわたし。 
 なのになんで、名雪に謝らせてるんだろう……。 
 
 ふと気がつくと、名雪がすこし俯いた姿勢のまま、上目遣いでわたしを見ている。 
「聞いたよ、全部……その……“祐一”のことも……」 
 くっ、こ、こんなときにアレだけど、 
 か、可愛い…… 
 思わず抱き締めてしまいそうだ…… 
「ごめんなさい、事情も……知らないで、勝手に付きまとって、勝手に勘違いして、 
 勝手に怒ってた……わたし……ごめんなさい……」 
「名雪……」 
 泣いてる…… 
 名雪が泣いてる。 
 
 もとはと言えば…… 
 わたしの方が悪いのに。 
 
 わたしの…… 
 罪なのに。 
 
 がしっ 
「きゃっ?」 
 自分にも、あつく込み上げて来るものに気付いた時、わたしは、名雪の両肩をつかんでいた。 
「ごめん……名雪、わたしが悪いのに……名雪を傷つけて……本当に、ごめんなさい」 
 涙が、零れる。 
「祐璃さん……」 
「本当は……嘘を突き通すつもりなら、わたしも、名雪を受け入れなければよかったのに……できなかった、だって、わたし……」 
 伝えたい気持ち。 
 わたしの……俺の。 
「名雪のことが、好きみたいだから」 
 
 名雪は、きょとん、としばらくこっちを見ていた。 
「……びっくり」 
 相変わらず、あまり驚いたように見えない顔。 
「“祐一”にあんなに一途に慕ってくれる名雪のことが……女の子同士で、変だとは思うけど、好きになっちゃったんだ……」 
 胸が締め付ける感触。苦しいのに、言葉が、想いが、堰を切ったように止められない。 
「うん、変」 
「……はっきり言うよなぁ」 
 名雪は目をきょとんとさせた表情だったけれど、急に戸惑ったような笑顔を見せた。 
「でも、嫌じゃないよ?」 
「えっ?」 
「祐璃さんが本当にわたしのこと好きなんだよね……?」 
 名雪はまだ戸惑ったような表情をしているけれど……なんだか、恥ずかしそうにしているようにも見えた。 
「う、うん」 
「だったら、わたしも……女の子同士でも、嫌じゃないよ」 
 え…… 
 ほ、ホントに……? で、でも。 
「だって、名雪は好きなのは」 
「うん、でも……わたしにもよく解らなくなってきちゃったんだよ」 
「良く解らないって……?」 
 今度は、わたしがきょとんとする番だった。 
「だって、わたし、7年前の祐一には拒絶されたんだよ。今、7年ぶりに“祐一”に出会って、 
 それでもやっぱり好きになったけれど……でも、その“祐一”は、7年前の祐一じゃなくて、祐璃さんの中の“祐一”だから……」 
 あ…… 
 そういう……ことに、なるのか? 
「それに、祐璃さんの気持ち、聞かせてくれたから……」 
「名雪……って、うわっ」 
 ぽふっ、という感じで、それまでわたしの前に立っていた名雪が、急にわたしに身を預けてきた。 
 わたしは、びっくりして、そのまま2人してベッドに座り込んでしまう。 
「な、名雪っ」 
「好きだよ、祐璃さんも、“祐一”も」 
 名雪はちょうど、わたしの胸の中に飛び込んできたかたちになってる。 
「祐璃さんの胸……あったかいね」 
 そのまま、ぎゅっと抱きついてくる。 
「でも、……小さいね」 
「え……」 
 名雪の率直な感想。 
 それを意識すると、わたしも、名雪の意外にふくよかな身体つきが感じられて。 
 げしっ 
 照れ隠しもあって、わたしは名雪の頭にチョップを入れていた。 
「痛いんだよ〜」 
「余計なこと言うからよ」 
 なんだか、張り詰めた空気が一瞬、薄れたような気がしたけど、 
 私達はお互い、顔を向き合って、 
 そのまま、どちらからともなく、唇を近付けていって―― 
 
 祐一…… 
 
 ごめんね―― 
 
 わたしはあなたの気持ちを裏切ってるかも知れない。 
 でも、たとえあなたでもきっと…… 
 
 優しいあなたならきっと…… 
 彼女の気持ちを、否定できないと思うから。 
 
 ………… 
 
 ……わたしの、勝手な思い込みかな。 
 
 ……でも、 
 
 わたしも、ずっと自分の気持ちに嘘をついて生きていけるわけじゃないから。 
 
 わたしと……俺の、気持ちには…… 
 
 わたしが……あなたであるために…… 
 
 あなたと、わたしのお願いのために。 
 
 許してくれるよね? 
 祐一。 
 
 ……それから、 
 
 こころから、「ありがとう」―― 
 
 
「ずっと、一緒だからね……」 
 
「もう、離れたくないから――」 
 
「本当には、結婚できないかも知れないけれど……」 
 
 あれ…… 
 
 ……ひょっとして…… 
 
「名雪、ごめん」 
「? どうしたの?」 
 不意にでたわたしの言葉に、名雪が不安そうな表情を向ける。 
「その……わたし達、結婚できそう」 
「えっ? だ、だって……」 
「だって、わたし……戸籍上は、男だもん」 
 わたしの戸籍って言うより、祐一の戸籍……なんだけどね。 
 わたしは元々、戸籍もってないから。 
「……それって」 
 
 ………… 
 
「…………」 
「…………」 
「ぷっ」 
「あははは……」 
 そういう話題でも状況でもないはずなのに、どうしてか、見つめあってるうちに妙におかしくなって、わたしは吹き出してしまう。 
 名雪も笑い声を上げた。 
「もう、雰囲気だいなしだよ……」 
 笑いを堪えるような表情で、名雪がわたしを見ている。 
「ご、ごめん、名雪……」 
「許してあげるよ」 
 そう言うと、名雪は軽く、目を閉じて、 
 わたし達は、もういちど、唇を重ねた。 
 
 
 
 
 
 
 

 
あとがき 
 
……… 
ついに書いてしまった…… 
と言うわけで、私にとって久々のPCゲームSS&初のKanonSSです。 
いかがでしょうか? 
先日、「月に叢雲、花に風」の本編の方を読ませていただいて、 
“祐璃”が特定のヒロインとつきあっている様子が書きたくなって、 
つい、書いてしまいました。 
けど、一人称でものを書くのは随分久しぶりのことなので、かなり苦戦してしまいました。 
なので、ちょっと稚拙な部分もかなり目立つかと思いますが、どうか御容赦下さい。 
 
最後に、このような作品をつくることを許諾してくださった綴 裕介様と、 
ここまでおつきあいいただいた、皆様に、感謝の意を表して。 
 
2001/12/24 通りすがりの堀田でした。 
 
著作権について 
「Kanon」  
 Key/Visualarts 
 
「月に叢雲、花に風」 
 綴 裕介 様 
 
 以上、それぞれに帰属いたします。


 
「月に叢雲、花に風 if…」 〜あなたに捧げる変調曲〜 
レズラブ万歳(笑 
と、いうわけで完結いたしました 
いかがでしたでしょうか 
私には特定のキャラと、というのは欠片も思いつきませんでした…… 
他のキャラとの絡みを見たいのでしたら、知ってるSS作家さんに 
「このSSのさ、香里編(もしくは姉妹丼編)見たくない? てか、俺が見たいから書け」 
とか進言しちゃてください、私には無理ですので…… 
 
 
さて、ここまで読んだあなた 
面白かったなら素直に言いましょう 
「良かったですよ」 
と 
ここに 
あとここも 
 
通りすがりの堀田さん 
投稿ありがとうございました 
 
 
 

gift index 2001/12/24