「祐一が女の子……」 
 
「…………」 
 
「……嘘つき」 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
月に叢雲、花に風 [if…] 
     〜あなたに贈る変調曲〜 

interlude
written by Torisugari no Hotta
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ドアをノックする音が聞こえる。 
「放っといてよ!」 
 祐一だと思った瞬間、反射的に大声が出てた。 
 けど、ドア越しに聞こえてきたのは、 
「名雪、わたしよ」 
 お母さんの声。 
 なぜだか、気恥ずかしくなっちゃう。 
「あ、お、お母さん、ご、ごめん、祐一だと思って……そ、その、なに?」 
「はいってもいいかしら?」 
「あ、う、うん……」 
 さっきから被りっぱなしだったふとんをはね除けて、ベッドの上に座り込む。 
 ドアを開けて入ってきた、お母さんは、随分険しい顔をしていた。 
「な、なに?」 
 なんだか、良くないことが伝えられそうで、私は怖かった。 
「その……」 
 お母さんは、少し困ったような顔をして、 
「祐一さんのことなのだけれど」 
 
 …………! 
 
「そんなこと」 
 どうして。 
「聞きたくないよ」 
 どうして、お母さんが。 
「名雪、これだけは聞いて」 
 どうしてお母さんが、祐一のかたを持つんだよ…… 
「いや! 聞かないよ!」 
 どうして。 
 どうして! 
 お母さんわたしのお母さんなのに! 
 どうして!! 
「どうして、お母さんが祐一のかたをもつんだよ! お母さんはわたしのお母さんなのに! 
 なんで祐一の、嘘つき祐一のかたなんか持つんだよ!」 
「名雪!」 
「聞きたくないよ! 祐一の味方するお母さんの話なんか聞きたくないよ! でてって、出てってよっ!」 
「名雪っ!」 
 
 パンっ…… 
 
 え…… 
 
 ………… 
 
 うそ…… 
 
 叩かれた? 
 
 お母さんに? 
 
「名雪……」 
 お母さんの顔…… 
 本気で怒ってる……? 
 見たことのない顔だよ…… 
「なんでぶ」 
「いいから聞きなさい!!」 
 わたしの抗議の声も遮って、お母さんは有無を言わせない口調でわたしを怒鳴りつけた。 
「名雪が小さいと思って、あの時、話さなかったのがいけなかったわね」 
 そう言うと、お母さんはかるくため息をついた。 
「あの時の……こと?」 
「そう……7年前のこと」 
 7年前? 
 7年前……、それって、 
「わたしが祐一に、雪うさぎ壊された時の……?」 
「そう、名雪にとっても、辛い出来事でしょうけど……」 
「思い出したくもないよ……」 
 わたしは、お母さんに怯えつつも、正直に口にした。 
「あの時はわたし、本当にもう笑えないって思いかけたよ……」 
「そう……でも、話さないわけにはいかないの……」 
 お母さんの表情は、さっきのそれとはまったく逆。本当に困ったような、すこし哀しそうなかおをしている。 
「あの時……祐一さんには他に、好きな女の子がいたの」 
 ……それぐらい……あの時のわたしだってすぐわかったよ。 
 ……でも、お母さんは、そのためにどうしてそんなに哀しい顔をするの? 
「でも、その女の子は」 
 
「死んでしまった」 
 
「……えっ?」 
 
「祐一さんの目の前で、木から落ちて」 
 
「う、うそっ!?」 
「嘘じゃないわ……」 
 お母さんの顔。 
 哀しそうな顔。 
 嘘を着いているようには、とても見えないよ…… 
「それで祐一さんは、悲しみのあまり、自分も死んでしまったわ」 
 
 ………… 
 
 ……えっ? 
 
 お、お母さん。 
 い、いま、なんて言った……の? 
 
「ちょ、ちょっとお母さん、冗談はよしてよ、いくらなんでも質が悪いよ」 
「冗談じゃないわ」 
 お母さんは、真剣な顔で言う。 
「だ、だって、祐一は隣にいるよ? ちゃんと生きて、隣にいるよっ!?」 
「あの人は……あなたが、7年前に雪うさぎを贈った祐一さんではないの。あの人は……祐一さんの、双子のお姉さんなのよ」 
「ふたご……」 
「そう……でも……存在してはいないはずの……ひとなのだけれど」 
 
 それから、お母さんはわたしに話して聞かせた。 
 お母さんも知らなかったことを。 
 
 ずっと幽閉されていた、祐一のお姉さんのこと。 
 祐一がお姉さんに贈った名前のこと。 
 そして、 
 祐一が、死ぬ前にお姉さんに、伝えたこと…… 
 
「……そして、祐璃さんは、祐一さんの代わりに、前に歩こうとしたの。祐一さんの、願いを叶えるために……」 
 そうだったんだ…… 
 あの人は……祐璃さんは、祐一の願いを叶えるために…… 
「聞かなければ良かったよ……」 
「名雪……」 
 わたしは俯いた。何故だか顔をお母さんに見られたくなかった。 
 泣き顔だから…… 
「……今の祐一は……祐璃さんは、7年前、わたしのことを拒絶したことは知らなかったんだね……」 
「……そう……そのことを知ったら……あなたの気持ちを踏みにじってしまったと、後悔していたわ」 
「そうなんだ……」 
 わたしの気持ちを踏みにじった…… 
 祐一がわたしのことを拒絶した、なんて知らなかったから、わたしと好きあっていたかったんだ。 
 ……祐璃さんが、祐一であるために。 
 好きな人を失ってしまった祐一。 
 弟を失ってしまった祐璃さん。 
 その人に、わたしは…… 
 
「あやまら、なきゃ……」 
 わたしは、なんだかいてもたってもいられなくなって、もそもそとベッドからおりる。 
「名雪?」 
「わたしの方こそ……話も聞こうとしないで、酷いこと言っちゃったよ……だから、謝らなきゃ……」 
 わたしがそう言うと、お母さんは、ようやく、いつもの表情に戻ってくれた。 
「ええ、それがいいわ」 
 いつもの、優しい笑顔に。 
 
 わたし……なにも知らないで、 
 祐一……祐璃さんのこと、拒絶しちゃった…… 
 
 好きだっていったのは、わたしの方なのに。 
 
 少し迷惑がってるあの人に、無理に付きまとっていたのは、わたしの方なのに…… 
 
 
 
 
 
 うそつきは…… 
 
 わたし。 
 
 ……あやまらなきゃ…… 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
はい、中編 - interlude - でございます 
後編も一緒に頂いたので私のコメントもまとめてそちらへ 
 
 

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