Kanon SS



血塗られた螺旋の絆
第18話



窓から差し込む日の光と、外から聞こえる鳥の囀り。

朝を知らせる自然の声に、俺はゆっくりと目を覚ました。

目を覚ました俺は、しかし体を起こす事無くじっと天井を見詰める。

そして暫くの時間が経った後、漸く俺は体を起こした。

目に入る時計の針は、まだ早朝と呼べる時刻を指し示している。

体に染み付いた習慣、と言うやつだろうか。

朝に弱い同居人を起こす為に、朝は余裕を持って起きるようにしていた。

だから自然と、この時間になると目が覚めてしまう。

皮肉な事だ。

その同居人を起こす事は、もう二度と出来ないと言うのに。

なのに俺の体は、自然と何時もの時間に目覚めてしまうのだから。

俺は窓から差す日の光を、手の平をかざす事で遮る。

そうしなければ、あまりの日の光の眩しさに涙が零れてしまいそうだったから。

俺は光が当たらぬ様に体をそらした後、その光源、大きな窓へと視線を向ける。

昨夜戸締りをした筈の窓は、しかし今は開け放たれ、

優しく吹き込む風にカーテンを戦がしている。

きっと、葛葉さんが開けたのだろう。

自然な目覚めを俺に促す為に。

何となく、そんな気がした。

俺は暫くの間、風に戦ぐカーテンとその向こうに見える景色を眺め続けた。

窓から見える外の景色、

風に戦ぐカーテンの模様、、

ベットではなく畳の上に敷かれた布団、

物が少ない、と言うよりは無いに等しい部屋の内装。

その全てが、俺の記憶にある朝とは全く違う風景。

その全てが、これから先の俺の記憶となる朝の風景。

全てが変わってしまった、朝。

俺が変えてしまった、朝。

今の俺にとって、朝が一番心の重くなる時だ。

何故なら、目覚める度にあの出来事を思い知る事になるから。

この部屋の景色が、あの出来事を揺ぎ無い事実として俺に突きつけるから。

もう二度と、あの日に戻る事は出来ないと思い知る事になるから。

家族だと思っていた二人から、血と、体を貪る俺。

夢にまで見る悪夢。

夢の中の俺は、朝を、目覚めを渇望する。

しかし、目覚めた所でなにも変わりはしない。

何故なら、そう、現実こそが悪夢なのだから。

それを思い知る事になる、朝。

だから俺は、一日の中で朝が一番嫌いな時になってしまった。

布団の上で蹲る俺は、額を押さえ溜息を一つ付く。

一寸先も見えないような暗闇。

まるでそんな暗闇に囚われたような感覚。

足掻けどももがけども俺を捕らえる闇を払う事は出来ず、

その闇が染み込むかのように俺の体の中に広がっていく。

それはまるで、俺の体が何かに汚染されていくかのようで。

俺はただ、震える事が無いように体を抑える事しか出来ないのだった。

どれくらい、そうしていただろうか。

俺は未だに震えそうになる体を如何にか奮い立たせた。

今朝も朝食を用意しているであろう葛葉さんの元に行く為に。

せめて葛葉さんが学校に行くまでは、俺は平静を装っていなければいけないから。

葛葉さんにこれ以上心配をかけない為に。

確かに、ここ数日で俺と葛葉さんの間には色々な出来事があった。

葛葉さんの行動に許せない感情を感じるのも確かである。

そう、葛葉さんの行動が事の発端となったのも事実。

しかしそれでも、俺があの病に犯されていなければここまでの問題にはならなかったのだ。

それに、葛葉さんが係わったのはあの時の一度だけ。

その後の経緯は、全て俺の責任。

秋子さんを拒みきれなかったのは俺の弱さ。

名雪を巻き込んだのは俺の罪。

そう、全ての要因が俺にあるのも事実。

そして俺は、自分の意思で水瀬家から逃げ出した。

全ての罪から逃げ出した。

卑怯にも、逃げ出してしまった。

逃げ出す事しか、考えられなかった。

その俺を迎えてくれたのが、葛葉さん。

まるでそれが当たり前のように俺を迎えてくれた葛葉さん。

俺を家族と呼ぶ葛葉さん。

そして、この家だけが今の俺と言う存在を置く事が出来る唯一の場所と言うのもまた、

紛れもない事実なのである。

だから俺は、今日も朝食の場に姿を現す。

葛葉さんに俺は大丈夫だと伝える為に。

葛葉さんが俺を気遣っている事は、言葉や態度に出すことは少ないが肌で感じる事が出来る。

だから俺は、これ以上葛葉さんに心配を掛けぬよう、俺は大丈夫だと伝えなければいけない。

例えそれが、一目で虚勢だとわかる見え透いた行動だとしても。

俺にはそれくらいしか出来ないのだから。

鉛のように重い腰を持ち上げ、俺は窓際にある座卓へと向かう。

その机の上には綺麗に畳まれた俺の着替えが置かれている。

これも、昨夜のうちに葛葉さんが用意しておいてくれたものだろう。

葛葉さんが用意したと言うこの服は、まるで計ったかのように俺にピッタリだった。

俺は何時ものようにその服を手に取り着替えを始める。

着ていた寝間着を脱ぎ去り、それを布団の上に投げ捨てる。

ズボンに足を通し、上着の袖に腕を通した所で、俺ははたと動きを止めた。

……待て、俺は今、何を考えた?

愕然とした表情を浮かべ俺は室内を見回す。

「何て…事だ……」

あぁ、確かにこれは、何て事だとしか言い様が無い。

五日、たった五日なのだ。

「ふ…ふふ……ははは………」

何も可笑しくは無いのに、笑いが零れる。

この季節に寒い筈などある訳無いのに、何故か体が震える。

何故なら俺は、たった今、こう考えたんだ。

『何時もの様に』、と。

つまり俺は、たった五日にして、

『既にここでの生活に慣れ始めた』と言う事。

だがそれは、ある意味必然的な事。

人は同じ事を繰り返せば、その事に慣れていくのだから。

そう、繰り返せば、慣れてしまう。

それは別に悪い事ではない。

悪いのは全て、俺にあるのだから。

人は慣れる。

例えそれが、どんな事でも。

だからそれは、考えようによってはとても恐ろしい事でもある。

非日常が繰り返され、もしそれに慣れてしまった時、

それはその人にとっての日常となるのだから。

世間から見てそれが如何に異常な事でも、慣れてしまった人にはそれこそが正常。

そして俺は、既に葛葉さんの用意する着替えに慣れ始めている。

それはつまり、何れはこの部屋での生活に慣れ、

嫌悪感に包まれた目覚めに慣れ、

ここでの生活に慣れ、

そして何時かは悪夢にも慣れ、

最後には、血を、体を求める事にも……。

そしてそれが、俺にとっての日常となる。

俺はその事に、何の疑問も抱かなくなる。

「嘘…だ……」

短く、そう呟く。

信じたくない。

そんな事信じられる訳が無い。

俺がそんな異常な日常に溺れるなど、信じたくは無い。

しかし、いくら頭を振りその考えを振り払おうとしても、

心の中に広がっていく不安と言う黒い染みを拭い去る事は出来ないのだった。



目覚めからたっぷりと時間を費やした後、

俺は漸く居間へと向かっていた。

トントントントントン

居間へと近づくにつれそんなリズミカルな音が俺の耳に届いてくる。

葛葉さんが朝食の用意をしているようだ。

その証拠に、味噌汁の美味しそうな香りが漂ってくる。

俺は引き戸に手を掛け、そっと開く。

食卓の上には既に茶碗と箸が並べられていた。

俺は昨日と同じ場所、俺様に用意したと言う茶碗の並べられた所に腰を下ろす。

そして腰を下ろすと共に、大きく息を付く。

気分が、優れない。

先程の嫌な考えが、如何しても頭から離れない。

でも、それでも、如何にかして気持ちを切り替えないといけない。

葛葉さんがこの部屋に訪れる前に。

そしてそれから数分後、ガラガラ、と引き戸が引かれ、葛葉さんが鍋を手に部屋へとやってきた。

しかし俺は今だ心の整理を付けられないでいた。

静かな足取りで葛葉さんが近づいてくる。

しかし俺は顔を上げる事が出来ない。

葛葉さんは何も喋る事無くテーブルに近づくと、そっと鍋をテーブルの上に置き自分の席に腰を下ろす。

葛葉さんは今俺の真正面に座っている。

しかし俺は、今だ顔を上げられずにいた。

それは明らかに不審な行動。

しかし葛葉さんは、その事には何ら触れる事は無く、ただ静かに、

「おはよう、祐一」

そう、口を開くのだった。

その声があまりに穏やかで、その声があまりに普通で、その声があまりに優しくて、

俺は漸く顔を、いや、その葛葉さんの声に誘われるように顔を上げるのだった。

顔を上げた俺に葛葉さんはやはり何も問う事は無く、お椀に味噌汁を注ぐとそれを俺に差し出す。

俺は葛葉さんの心遣いに感謝しながらその、味噌汁を受け取りそして口を付けるのだった。

こうして、静に朝食は進んで行きそろそろ終わりに差しかかろうとした頃、

「ねえ、祐一」

不意に葛葉さんが口を開いた。

俺は食べ終わった茶碗の上に箸を置き正面から葛葉さんを見詰める事で先を促す。

「まだ、学校には行けそうに無いのかしら?」

学校

その言葉に俺の体が震える。

葛葉さんの言葉は尤もだ。

俺はまだ学生の身分であり、そしてここ数日は無断欠席を続けている。

しかも俺は別に身体的に異常をきたしている訳ではない。

いや、ある意味異常をきたしているのだが、どちらかと言うとあれは精神に由来するものだろう。

俺も、出来る事なら学校に行きたい。

学校特有の心地良い喧騒、あの喧騒に包まれたならきっと俺の心も少しは軽くなるだろうから。

そしてあの喧騒に包まれることによって、俺はまだ皆と同じ日常に居ると感じる事が出来る筈だから。

「学校に行くのも一つの気分転換になると私は思うんだけど。

でも……」

そう、確かに学校と言う場所は今の俺にとって間違いなく救いとなる場所だろう。

でも……、

葛葉さんはそう言って俺の言葉を濁した。

でも……、

俺は学校に行く事を如何しても躊躇ってしまう。

何故なら、学校に行くと言う事はほぼ間違いなく名雪と出会うと言う事だからである。

「まだ、心の整理が付かないのかしら?」

俺を気遣うように葛葉さんが聞いてくる。

確かに、心の整理が付かない。

だが、俺と葛葉さんの間には大きな認識の相違がある。

葛葉さんは俺と秋子さんとの関係で水瀬家内に何らかのいざこざがあったと思っている筈だ。

だが、事実は違う。

事実はもっと残酷だ。

何故なら俺は、名雪さえも血で染め穢してしまったのだから。

断片的な記憶の中に映る名雪の姿。

家族として接してきた名雪が、一人の女として俺の体の上で悶える姿。

変わってしまった、俺が変えてしまった名雪。

その名雪に会う事は、その事実を突きつけられる事は、今の俺にとって耐え難い恐怖だった。

「そう、まだ駄目なのね」

俺の表情から何かを察したのか、葛葉さんがそう呟く。

「でも、だからと言って家の中でじっと過ごすのも体に悪いわ」

そう言って葛葉さんがスカートのポケットに手を伸ばす。

其処から出されたのは、手の平にすっぽりと収まる小さな包み。

葛葉さんはその包みを俺の前にそっと差し出す。

「これは?」

その包みを手に取り、そう尋ねる。

開けてみて、俺を見詰める葛葉さんの瞳はそう告げていた。

俺は促されるままに包みを開き、手の上にその中のものを取り出す。

包みの中から出てきたもの、それは一つの鍵であった。

「この家の合鍵よ」

それが何処の鍵なのかと考えていると、前に座る葛葉さんがその答えを出してくれた。

「この家の、鍵?」

俺は鸚鵡返しをするようにそう呟く、

「そう、合鍵。

それがあれば祐一も安心して家を空ける事が出来るでしょう?」

そう言って葛葉さんが微笑む。

「私は別に、祐一が学校に行く事を強要はしないわ。

でも、何時までも家の中でじっとしてるのも体に良くないと思うの。

だからその合鍵を用意したのよ」

俺は手の中の鍵を見下ろす。

家の外…学校…。

俺はゆっくりと、しかし力強くその鍵を握り締める。

「制服もクリーニングを済ませたから何時でも着れるわよ」

その声に俺は下げていた顔を上げる。

見上げた先、俺の瞳に映るのは、優しく微笑む葛葉さんの笑顔だった。



「じゃあ、行って来るわね」

見送りに来た祐一に声を掛け、葛葉は玄関を潜る。

最後に一度微笑を浮かべ、ガラガラガラと引き戸の玄関を閉じる。

戸を閉じた瞬間、祐一の姿が見えなくなった瞬間から、

葛葉の顔から感情と言うものが全て消えうせていた。

それはまるで、精巧に作られた人形の如く。

いや、まだ人形の方が温かみを感じられるかもしれない。

そう思える程に葛葉の表情は冷たいものだった。

全てを拒絶し、全てに無関心な表情の葛葉は、ただ真っ直ぐに前を見詰めて学校へと歩いて行く。

道の脇に咲く草花にも、

尻尾を振り親愛の行動を示す散歩中の犬にも、

脇を走り抜ける楽しげな小学生の集団にも、

そのどれにも、葛葉は微塵も関心を示そうとはしない。

葛葉にとってそれらは全て無用のもの。

ほんの僅かの関心ですら向ける価値を見出せないもの。

葛葉にとって必要な存在とは、唯一つ。

と、その時、それまでの確然とした歩みを不意に止め、葛葉は立ち止まった。

立ち止まった葛葉は、微かに頭を下げ肩越しに振り返ると己の背後に視線を向ける。

そしてその瞬間、葛葉の顔に感情が呼び戻される。

葛葉の顔に浮かんだ感情、それは喜び。

葛葉は確かにその顔に笑みを浮かべている。

背筋を凍りつかせるような、妖しく妖艶な笑みを。

そして葛葉は、その唇を開く。

花の蕾の如きその唇を。

そう、血に濡れた紅き薔薇の如き唇を。

まるでその場に居ない彼の者に語りかけるかのように。

「ねえ、祐一。

そろそろ乾いてくる頃じゃないかしら。

あの日から、今日で五日目。

温もりを、日常を、安らぎを、祐一は求めて已まない筈。

でも祐一はその求めるものを手に入れる事は出来ない。

だからその思いは、その手に出来ぬと思う程に、深い渇望となって胸の中に溢れかえる。

そしてその渇望は、決して抗えぬ欲望となって祐一の心を深く侵食していく。

例え祐一がその事に気付いていなくても、確実にそれは祐一の心に広がっている。

思いが深ければ深いほどに、その反動も激しくなるのだから。

そう、祐一の体は求めている。

焼けるような渇きを潤す、あの味を。

一度喉を潤したあの味を、忘れる事など出来はしないのだから。

だから祐一、私が全て用意してあげる。

祐一が望むもの、全て用意してあげる。

その喉の渇きを、私が潤してあげるから。

もう、戻る事は出来ない。

いいえ、最初から進むべき道は一つしかなかったのよ。

だから祐一、出てきなさい。

何も怖がる事は無いのよ。全て私が用意してあげるから。

さあ、祐一、早く出てきて。

その忌まわしい、檻の中から……」

瞳に浮かぶのは、恍惚の色。

口元に浮かぶのは、妖艶なる微笑。

そして紡がれるは、甘美なる禁断の囁き。

そして葛葉は、歩き始める。

自分の思い描く筋書き、その通りに舞い踊るマリオネット達、

後は主役の登場を待ち受けるだけとなった最高の舞台へと。

歩みを再開した葛葉、

真っ直ぐ前だけを見詰めるその葛葉の表情には、

既に一片の感情も浮かんではいなかった。



葛葉が出掛けた後、祐一は柱に背を預けただじっと虚空を見詰めていた。

聞こえてくるのは、ただ時計の針が時を刻む音だけ。

先程までは、葛葉が居た時は何とも無かったのに、

何故今はこれほどまでにこの音を耳障りに感じるのだろうか。

何時から俺は、一人で居る事を苦痛に思うようになったのだろうか。

いいや、違う。

知らなかっただけだ。

そう、俺は知らなかったのだ。

一人という事がこれほどまでに苦痛だという事を。

俺の周りには、何時も誰かが居てくれたから。

そう、俺の周りには何時も……。

そう思った途端、耐え難い悲しみが俺の中に込上げてくる。

「…っ……」

膝を抱え体を丸めるようにして蹲る。

一人は、もう一人は嫌だった。

誰でも良い、話をしたい。

例えどんな話でも構わない。

一人で居ると否応無しにに嫌な考えばかりが浮かんでくるから。

徐々に徐々に、心が黒に塗りつぶされていくような感じがするから。

この広い家に、ただ一人。

聞こえてくるのは、時計の音だけ。

気が、狂いそうになる。

いや、いっそ狂ってしまえればそれはどんなに楽な事だろうか。

狂いさえすれば、もう何も考える必要は無くなるのだから。

震える頭を上げ、祐一は時計を見上げる。

葛葉さんが出掛けてから、まだ数十分も経ってはいなかった。

祐一は時計から目を下ろすと、何かを探すようにポケットに手を入れる。

引き出された手の中に握られていたのは、鍵。

今朝葛葉に渡された、この家の鍵であった。

葛葉さんは言った。

少しは外に出た方が良いと。

だが、外に出れば秋子さんや名雪に出会ってしまうかもしれない。

それを思うと、如何しても家から出る気にはなれない。

だが、一人は、一人はもう嫌だった。

誰でも良い、何処でも良い、人の温かさが欲しい。

いや、ただもう自分とは違う人の存在を感じる、それだけで良かった。

祐一の手の中に握られる鍵。

それは本来、この家の扉を閉じるべき存在。

しかしこの鍵には、もう一つの意味があった。

祐一が外に出れば、この家は無人になってしまう。

戸締りもせずに家を空ける事は出来ない、それが祐一が外出を躊躇う理由の一つであった。

でもそれは、昨日までの事。

今の祐一の手の中には、この家の鍵が握られている。

そう、この鍵は家の扉を閉めるためのものであり、

そして、祐一の心の扉を開けるものでもあったのだ。

祐一は手の中にある鍵をきつくきつく握り締める。

祐一の心の扉を閉めていた幾つもの枷。

その枷はあるいは寂しさによって、あるいは悲しみによって、あるいは手の中にある鍵によって、

そして、あるいは祐一すら気付かぬ渇きによって、一つ一つ、打ち砕かれていた。

そして残る枷は、後一つだけ。

その一つ残った枷は、溢れんばかりに膨れ上がる祐一の思いを堰き止めるには、

あまりに脆い存在であった。

それからどれ位の時間が経っただろうか。

この部屋に、いや、この家の中の何処にも、

祐一の姿を見る事は出来なくなっていた。



檻の扉は、静に、開け放たれた……。



つづく

あとがき

祐一、かなり参ってますね。

まあ参って当然の様な状況ではありますよね。

さて、家と言う名の檻から抜け出した祐一、

その祐一が向かう場所、温もりを求める場所とは?!

まあ、あそこしか考えられないのですが……。